世に高級時計はたくさんありますが、純粋に「作りの良さ」だけで評価されている時計は実はそれほど多くありません。
今回ご紹介する時計は、その作りを見たらその値段にも素直に納得せざるを得ない。
まさに「芸術品」と呼ぶにふさわしい、そんな逸品です。
ランゲ&ゾーネのダブルスプリット
本日ご紹介したい時計はランゲ&ゾーネのダブルスプリットという時計です。
通常(というほど本数は出回っていませんが・・・)はプラチナケースですが、今回入荷した時計はリミッテッドのYGケース。なんと世界で10本のみの限定品です!
スプリットというのは、通常のクロノグラフに加えてもう1本センタークロノ針が付くことで、2つの異なるタイムを計測できる複雑機構のことです。機構上、タイム差を計測できるのは60秒までです。
しかしこの時計はダブルスプリットという名前の通り、30分積算針にももう1本針が付いています。
これにより30分内のタイム差を秒単位で計測できるようになっています。
“ダブルスプリット 404.048F/LS4041AX”は2004年発売当時に時計史上初の超複雑機構として、世界中の時計好きを驚愕させたモデルです。
この時計は当然その機構がすごいのですが、その機能を紹介するだけではもったいない。
ムーブメントを見た時の存在感たるや・・・!
やはりランゲはデザインの美しさと作りの良さを味わう時計なんだなと、改めて思い知らされたこともあり、まずはランゲの時計について少しお話しさせてください。
長くなりますので、すでにご存知の方は飛ばして読んでください。
ランゲ&ゾーネってどんなブランド?
いきなり上のような文章で初めてしまいましたが、ランゲ&ゾーネは一般的にはあまり知られていないブランドです。
逆にこのブランドの名前を知っていればそれだけで「お!この人時計好きなんだな」っていうのがすぐに分かってしまう、通好みのメーカーとも言えます。
出典:https://www.alange-soehne.com
創業者がザクセン公国(現ドイツザクセン州)の王宮時計師として採り上げられたことが、ランゲ&ゾーネの始まりと言えます。王室から得た多額の融資をもとにグラスヒュッテに独立工房を開設し、育った弟子たちが部品専門工房を作り、ドイツ時計の基礎を作りあげました。しかし第二次世界対戦により工場が焼失し経営は中断。戦後は東ドイツに組み込まれ国営企業として接収されてしまいました。しかし東西ドイツが合併した1990年にランゲ&ゾーネは復興を果たします。
創設にはドイツの財閥マンネスマングループの鉄鋼部門の代表が「統一を記念してドイツ時計の最高峰を復活させよう」と、ランゲ&ゾーネの創始者のひ孫であるヴァルター・ランゲを探し出したそうです。
車やカメラなどの工業製品でもドイツ製の作りの良さは、周知の通りです。
そのドイツ人が「最高峰の時計」として復活させたわけですから、当然中途半端なものは作りません。
さらにかつて王室御用達としてドイツ時計の基礎を築きあげた一族の子孫が新生ランゲ&ゾーネの設立者となったこともこのメーカーの特徴だと言えます。
これは私感ですが利益よりも、宮廷時計士の一族としての誇りや、ドイツ時計の歴史を復興させることに重きを置いているように思えてなりません。
利益優先であれば、そこまではこだわらないだろうという位、手間を惜しまず時計を作っています。
現代社会においては無駄とも言えるほどのこだわりと手作業が、ランゲ&ゾーネの価値を高め、存在感を生み出しています。
前置きが長くて申し訳ありませんが、ご紹介したい時計をお見せする前に、まずはザッとですがランゲ&ゾーネの時計の特徴についてもう少しお話しします。
3/4プレート
シースルーバックのケースであれば見ることができますが、ランゲ&ゾーネのムーブメントの大きな特徴として歯車を押さえる受け板がとても大きいことがあげられます。
出典:https://www.alange-soehne.com
面積の実に3/4を占める大きな受け板が採用されていますが、これは精度の安定性を大幅に向上させますが、多くの歯車を同時に押さえなくてはならないため、組み付けに高い技術と根気が必要とされます。
テンプ受け
またランゲ&ゾーネのテンプ受けには手掘りによるエングレービングが施されています。
掘り手により微妙に表情が変わるので、誰が彫ったものか分かるそうです。
出典:https://www.alange-soehne.com
この作業はテンプ受けが見えない時計にも施されるそうで、ランゲ&ゾーネのアイデンティティの一つでもあります。
仕上げ
テンプ受けのエングレービングの例を見ても分かるように、ランゲ&ゾーネは仕上げの美しさにこだわります。
それは部品一つをとってもそうで、見えるところと見えないところを問わず、丁寧に仕上げがされています。
出典:https://www.alange-soehne.com
また部品ごとに仕上げの方法を変えており、組み立てられた時に調和がとれ、光の角度によって様々な表情を見せる、実に美しいムーブメントとなります。
伝統のこだわり
後述しますが伝統を大切にするランゲ&ゾーネは、シャトン留めやブルースクリューなど、アンティークの時代から受け継がれた方式を今も採用しています。
出典:https://www.alange-soehne.com/
シャトン留めはかつては高級時計の代名詞とも言える仕様でしたが、現代においては実用には関係なくなってしまいました。しかしそれでもあえて手間とコストがかかるこの方式を採用するところに、ランゲ&ゾーネの哲学が見え隠れします。
上記した3/4プレートも、ランゲ&ゾーネが生み出したドイツ時計の伝統的な方式です。
素材選び
ムーブメントの地板や受け板に、ジャーマンシルバーと呼ばれる洋銀を地板に使用しています。
これは通常地板に使用される真鍮よりも強度に優れ、かつ酸化しにくいという特性があります。
もちろん長い年月を経ると酸化して、黄金色の膜で覆われることになりますが、これが素材を自然と保護する役割を果たし、メッキの必要がありません。
二次組み立て
これは全くもって見えない部分ですが、組み立て方にも強いこだわりがあります。
それは二回組み立てを行うというもの。
出典:https://www.alange-soehne.com
時計を問題なく機能するように組み立てながら調整していきます。この調整が終わった時点でムーブメントは支障なく機能していますが、一度ムーブメントを分解して洗浄します。そして上記しような細かな仕上げやエングレービングなどの仕上げを施し、もう一度組み立てを行います。
一次組み立ての調整時にどうしても小さいな傷やゴミが入ってしまう可能性があるため、非常に手間とコストのかかるこの工程を全ての時計に実施しています。
このように随所に作り手のこだわりが詰まっています。
そして時計を見れば、そのことが自然と伝わってくるのが不思議なものです。
404.048F/LS4041AX ダブルスプリット
さてこれらを踏まえて、ようやく本題に入ります。
最初に述べたように、この時計のすごいところはダブルスプリットという超絶機構を搭載しているところにあるのですが、その前にまず注目したいのが「造形美」です。
ダトグラフ ダブルスプリット 404.048F/LS4041AX
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ベースとなったダトグラフはその機構のみならず、レイアウトの美しさでも非常に定評の高い時計です。
12時のアウトサイズデイト。4時の積算計。8時の秒針。均整のとれた端正な顔つきが特徴です。
それもそのはずで、ダトグラフはまずダイヤルデザインありきで、そのデザインを実現するためのムーブメントが設計されています。
このような作り方をされる時計は異例であり、通常はムーブメントの機構ありきでその制約の中でダイヤルデザインが決定されるのが普通です。
自社開発(マニュファクチュール)ならではのメリットが存分に生きた最高例と言えるのではないでしょうか。
このように、ムーブメントの作りがクローズアップされがちなランゲですが「美しい時計」の哲学は、見た目の美しさも同じようにこだわって作られています。
そしてやはり気になるムーブメントですが、裏スケルトンになっているので非常に精緻なムーブメントを簡単に見ることができます。
「3階建て」と表現したくなるような立体感で組みあげられています。
腕時計でここまでの高さというか深さを見ることが出来るモデルはなかなか無いのではないでしょうか。
ムーブメントを拡大して見ると、細かな部品が複雑なレイアウトで配置されているのが分かります。
その複雑さと造形美はまるでバロック建築のようでもあります。
偶然だとは思いますが、ランゲ&ゾーネの創業地「ザクセン」もバロック様式の城や街並みがきれいな街ですね。
当然部品も一つ一つ丁寧に仕上げられています。
鏡面や面取りが美しい仕上げのスチール製の部品と、ランゲ&ゾーネ特有の洋銀製地板の鈍い輝きのマッチング。
そしてそこに配されたブルースチールネジとシャトン留めの色合いも、この時計の品と風格を高めます。
ムーブメント上部(12時側)にテンプを配し、中央~下部(6時側)にクロノグラフのパーツがビッチリと詰められた独特なレイアウト。
そのおかげでこれだけで部品点数が多くなっても、ランゲ&ゾーネ特有のテンプ受けのエングレービングを見ることができます。
これは憶測ですが、もしこのテンプ受けのエングレービングが見えるようなレイアウトが計算されて作られたものだとしたらなんと緻密な設計なのでしょう。
もうここまで来ると、計算して作ったということで間違いないような気がしてきます。
ピラホイールが2つあって、1つは通常のクロノグラフ用で、1つはスプリット用です。
押し心地はとても滑らかで心地いいものです。
この下にもう一つスプリット用の歯車があります。
ムーブメントだけでも、飽きずにずっと見続けることができる。
そんな時計です。
スプリット針は普段は2本重なるようにセットされていて、通常のクロノグラフ作動時には針が1本動いてるようにしか見えません。したがって普段仕様している時は通常のクロノグラフとの違いを一見で認識することは困難です。
しかしクロノグラフ作動中に10時のスプリットボタンを押すと、普段見えている銀色の針はそこで留まり、その下から金色の針が顔を見せます。そしてこの金色の針は2時のストップボタンを押すまで第2時間帯を計測し続けます。
そして金色の針が12時の60秒のところまで来ると、30分の積算計も同じように下から金色の針が顔を覗かせます。
これにより30分以内の2つの異なるタイム差を計測することができるようなります。
もう一つ注目したいのが「プレシジョン・ジャンピング・ミニッツカウンター」機構を搭載していることです。
この機構はクロノ針が一周して60秒を計測する時に、積算計の針が瞬時に一目盛り進むシステムです。
一般的なクロノグラフの場合、クロノ秒針が1周(60秒)する時に、積算計がチチチチ…カチャという感じで3秒ほどかけて動くため、止めたタイミングによっては分を読み違える可能性があります。
デザイン面だけでなく実用性も求めるランゲの哲学とこだわりはこんなところにも、しっかりと現れています。
最後に
有名で高級なマニュファクチュールブランドはいくつかありますが、ここまで手作業にこだわりを持ったメーカーは類を見ません。
決して派手ではありませんが、利益や生産性を重視する現代において、このような時計は最高に贅沢な品と言えるのではないでしょうか。
商品ページ
ダトグラフ ダブルスプリット 404.048F/LS4041AX
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