初めての腕時計。機械式とクォーツ式、どちらを購入する予定ですか?
パッと見は、あまり違いがないように思えるかもしれません。しかしながら機構・使い勝手・価格、あるいは外観まで、実は様々な面において大きく差があります。
いったい、どちらを買うのが正解なのでしょうか。
そこでこの記事では、機械式時計とクォーツ式時計それぞれを解説するとともに、メリット・デメリットの面から徹底比較してみました!
ご自身のライフスタイルにマッチした一本を選ぶためにも、ぜひご一読ください!
目次
クォーツ式と機械式腕時計の違い
クォーツとか機械とか、いったいなんのこと・・・?と思うかもしれませんが、これは時計を動かす機構の違いです。
現在一般に出回る時計のほとんどが、このどちらかの機構を採用しています。
それぞれの仕組みと、違いを解説いたします。
クォーツ式腕時計とは?
恐らく、多くの方々に馴染みが深いのはクォーツ式腕時計でしょう。雑貨店や量販店で販売している数千円~1万円程度の時計は、ほとんどがクォーツ式となります。
クォーツ式時計のクォーツとは、パワーストーンなんかでもよく知られる水晶(石英)のことです。そして、動力源となる電池、クォーツの振動を受けるIC(集積回路)、時・分・秒針を動かす機構となるステップモーターがあってクォーツ式腕時計は構成されています。
クォーツは、交流電圧を印加するとぶるぶると振動します。その振動数は、1秒間に32,768振動!ちなみに機械式時計の振り子(あるいはテンプ)に当たる機能がクォーツで、高速振動であるほど一定の高精度を実現します。
さらにクォーツによって生み出された振動がICによって一秒に一回の電気信号へと変換され、ステップモーター(ステッピングモーター)へと送り込まれます。ちなみにステップモーターは非常にシンプルな回転モーターで、キャッチした電気信号(正確にはパルス電流)ごとに一定の角度ずつ回転できます。パチンコ・スロットのリールやプリンターの紙送りなどにも使われています。
ステップモーターは機械的な構造を備えており、この機構が文字盤側から見ると針に当たります。ICから電気信号が一回送られてくるたびに一定の角度動く仕組みとなっているのが秒針。一秒ごとにチクタクと時を刻んでいるのは、ICからの電気信号によるものだったのです。そしてこの秒針が動くたびに分針が取り付けられた歯車もまた動き、一周すると分針が進む、同じ要領で分針が一周すると時針が進む、というわけです。
なお、ステップモーターの代わりに液晶ディスプレイを使った時計がデジタル時計です。そのためステップモーター式を「アナログクォーツ」、液晶ディスプレイ式を「デジタルクォーツ」などと呼ぶこともあります。
こうしてできたクォーツ式時計の一般的な精度は、月差±15秒~±30秒程度と言われています。
クォーツ式腕時計の発展の歴史
クォーツ(水晶)が電圧印加によって振動する、と言う性質が発見されたのは19世紀後半です。フランスの物理学者兄弟ジャック・キュリーとピエール・キュリーによる仕事です。その後1927年、アメリカの研究者マリソンらによって腕時計への応用が始められました。
皆さんご存知の通り、昔ながらの機構は機械式です。こちらは13世紀後半に基本構成ができあがり、18世紀には現代機械式時計の原型が既に確立していました。つまりクォーツは、結構最近の時計ということになります。
一方で19世紀に入ると、イギリスで産業革命が起きたことをきっかけに、世界各国の産業事情が大きく変わっていきました。各種工業や交通手段が発達する中で、「より正確な時計」への需要が高まります。この時計の正確さは「精度」と呼ばれますが、ヨーロッパを中心に時計の精度コンクール(天文台コンクール)が展開されるようになったのもこの頃です。
ただ、後述しますが、機械式時計の精度を上げるのはかなり大変です。先ほどクォーツの振動のお話をしましたが、時計が正確に時を刻むには、何よりもこの振動数がミソになってきます。
機械式時計の駆動力はゼンマイがほどける力ですが、ただほどけるままに任せていると、あっという間に終わってしまいますし、時間も何もありません。チョロQなどゼンマイで動くおもちゃがそれを証明していますね。
そこでゼンマイがほどけるスピードを調整する(調速)ためのパーツが必要になります。
この調速機構はいくつかの要素があるのですが、最も大切であり、時計の心臓部とも言われるのがテンプです。テンプは振り子時計の振り子のような役割を果たします。この振り子が振れる数が少ないと、ゼンマイがほどけるスピードが一定にならず、結果として精度は低くなります。つまり、振動数が高ければ高いほど精度が高い時計、ということを意味します。
ではテンプの振動数を上げれば精度の高い機械式時計を作れるか、というとそうではありません。機械式時計は金属製パーツが多数・精密精緻に組み立てられて構成されているため、高速振動によってパーツ同士が摩耗して寿命を早めてしまったり、故障の原因になったりするためです。
しかしながらクォーツ式時計であれば、細かなパーツ同士を組み合わせてテンプを形成せずとも、クォーツを投入すれば高速振動構造を実現することができます。
また、駆動方式を電池に、そして振動を送り込む装置をICにすることで、機械的な構造がぐっと減り、無数のパーツが組み合わさることによるデリケートさは一掃されました。
こういったクォーツ式時計の利点から、さらに「高精度な時計」へのニーズが高まった20世紀に、その研究開発が進められました。
ただ、今でこそICだ小型化だが叫ばれますが、当時まだ電子機器は大型が主流です。ちなみに1946年にできた世界初のコンピュータは、約30トンの重量があったとか。そんな時代ですから、腕時計サイズにまでクォーツ式の構造を小型化することがなかなかできませんでした。
これを成功させたのが、日本のセイコーです。1969年、「アストロン」の名で市販化されました。
※1969年に発表された世界初クォーツ腕時計アストロン 35SQ(画像出典:https://museum.seiko.co.jp/knowledge/Quartz01/)
ちなみに厳密にはクォーツ式ではありませんが、機械式を脱しようとする試みは様々なメーカーで行われていました。
有名どころではアメリカのハミルトン。今でも同名シリーズがありますが、1957年に発表されたベンチュラは、テンプ駆動式電池腕時計といった呼ばれ方がされます。これは、機構自体は機械式なのですが、駆動力にボタン電池を採用したことで、電池が寿命を迎えるまでは手でゼンマイを巻く必要のなくなった時計です。
また、1960年開発のブローバによる「アキュトロン」もその画期性から今なお語り継がれます。これは音叉(おんさ)式腕時計で、U字状にした金具(音叉)に電磁石で一定の振動を発生させ、制御を行う機構です。このアキュトロンも日差わずか2秒という驚くべき精度を誇っていたのですが、セイコー アストロンのクォーツ式時計が日差±0.2秒、月差±5秒というさらなる高精度であったこと。加えてその後、オートメーションによる量産化に成功したことから、クォーツ式時計が時計業界の主流となっていきました。
ちなみにクォーツの量産化は、これまで「高級品」であった腕時計を、一般庶民にも手が届く日用品に変えていくこととなります。そして機械式時計に大打撃を与えるきっかけにもなったことから、セイコー アストロンが発表された1969年~1990年頃までを、クォーツショックと時計業界では読んでいます。
機械式腕時計とは?
機械式時計は何度か言及しているように、昔ながらのゼンマイで動く機構です。
一般的に「香箱車(一番車)」「二番車」「三番車」「四番車」「ガンキ車、アンクル」「テンプ、ヒゲゼンマイ」というパーツで構成されており、これらが狂いなく動くことで機械式時計は時を刻みます。
まず香箱車ですが、ゼンマイの収納箱です。ここが機械式時計の動力源となります。
ゼンマイを限界まで巻くと、ゼンマイは元に戻ろうとほどけていくこととなりますが、この力は二番車、三番車、四番車へと伝わっていきます。ちなみに二番が分針と時針、三番が仲介役、四番が秒針に当たります。
出典:https://www.seiko-watch.co.jp/
しかしながらゼンマイがほどける力に任せていると、あっという間に終わってしまいます。
そこでこれを調速するのがテンプであり、テンプと一~四番車間の橋渡し役がガンキ車・アンクルです。
テンプは振り子の役目を果たすので、振動数が多ければ多いほど高い精度を誇ります。軍事に産業と、高精度の腕時計への要請が高まる中、この振動数をより多くすることは時計メーカーにとって至上命題でした。
しかしながら、前述の通りパーツ同士の摩耗が激しくなると、それだけ寿命が早まります。とりわけテンプとともに行動しているヒゲゼンマイがデリケートで、非常に細かなパーツであるにもかかわらず精度面に大きな影響を及ぼすとあって、ヒゲゼンマイを劣化させないような仕組みが必要であったためです。
また、そうでなくともクォーツほどの高振動を金属パーツ同士で起こすのは至難の業です。そのため現在「ハイビート」と呼ばれる高振動機械式時計でも、一秒間に10振動(毎時36,000ビート)がせいぜいです。クォーツが一秒間に30,000ビート超えであることを考えれば、その差は歴然でしょう。
機械式時計は一日の誤差(日差)が±20秒までは正常と言われています。
そのためクォーツが量産されると、機械式時計は廃れていくこととなります。これがクォーツショックと呼ばれる所以です。
しかしながら1990年代に入ると、再び機械式時計は返り咲きました。
いったいなぜ機械式時計は再び注目されるようになったのでしょうか。
次項でご紹介するクォーツ式時計・機械式時計それぞれのメリットとデメリットを知ると、その答えが見えてきます。
クォーツ式腕時計のメリット・デメリット
それでは、機械式時計と比べた時に考えうる、クォーツ式腕時計のメリット・デメリットを解説いたします!
メリット
■高精度
クォーツ式腕時計の最大にして最高のメリットはこれです。その正確性です。
クォーツの高振動、それを電気信号に変換し正確に針を動かす(ステッピング)モーターは、機械式時計には真似できません。
なお、さらに正確な時計として電波時計が挙げられます。これは情報通信研究機構が送信する標準電波(誤差が約10万年に一秒とされる超高精度な原子時計が時刻基準となっている)をキャッチし、自動で時刻修正してくれる時計です。
しかしながら電波が受信できない場所では時刻修正を行えません。そこで受信環境外ではクォーツ時計として運針するものがほとんどであり、やはり高精度時計にクォーツが欠かせないことがわかりますね。
■低価格
機械式時計は細かなパーツを緻密な設計のもと、精密・精緻に組み立てていかなくてはならず、量産しづらいためどうしても高額になりがち。
しかしながらクォーツ式時計は機械的な構造は少ないため、低コストでの製造が可能です。
クォーツ発明当初は高額であったものの、現在では大量生産されるものがほとんど。1,000円以下で売られているものも少なくありません。
ちなみにクォーツは原石がそのまま使われるわけではなく、一定の振動数を実現するためにカット・研磨がなされますが、ダイヤモンドのように精密なものではないので量産は比較的カンタンです。
こういったクォーツ式腕時計のリーズナブルさは、「世界中のあらゆる人が時計を持つ」ことを実現したという、産業界にとって非常に意義深いものがあります。
■安価でも及第点の性能を持つ
大量生産品の多くに言えることですが、製造工程がある程度決められているため、安価でもそこそこ良いレベルの性能を保ちます。つまり、100円均一で売られている腕時計でも、一定の精度を保つ、ということ。
コストパフォーマンスに優れているとも言えますね。
■ブランドの選択肢が広い
機械式時計は、製造できるメーカーも購入層も限られることから、基本的に時計に特化したブランドから販売されています。
一方のクォーツ式時計は量産されていることから、カジュアルブランドやファッションブランドなどでも手が出しやすい機構です。そのためダニエルウェリントンやポールスミス、ディーゼルなど、ファッションに敏感な若者からの人気のブランドも、クォーツ式腕時計をラインナップに加えてきました。
つまり、ご自身の気に入ったファッションブランドの時計を持とうと思った時、クォーツ式の方が探しやすいことを意味しています。
出典:https://www.danielwellington.com/jp/dw-watch-women-classic-cornwall-rose-gold-36mm/
さらに言うと、憧れの高級ブランドでも、クォーツであれば比較的低価格で手に入れられるケースが多いです。
そのためエントリーモデルとしてクォーツ時計をラインナップしているブランドも結構あります。例えばタグホイヤーやグランドセイコー、ブライトリングなどがこれに当てはまります。
平均価格は30万~50万円以上、でもクォーツなら10万円台・20万円台で手に入る。初めて高級時計を購入する際にも、嬉しい門戸の広さと言えるでしょう。
■メンテナンスに手間いらず
メンテナンスフリーとまではいきませんが、基本的にクォーツ式時計は電池が切れるまでは何もしなくても動いています。
ちなみに電池の寿命は現在は3年~5年ほど。中には10年も持つような長寿命電池もいます。
また、従来の「使い切り」の一次電池から、太陽電池など光によって充電することで何度でも使える二次電池を駆動力に用いて、よりエコなクォーツ式腕時計も市場に出回るようになりました。
機械式時計はゼンマイがほどけてしまったら自分自身で巻かなくてはならないことを考えると、手間いらずですね。
また、機械式時計に欠かせないオーバーホールをご存知でしょうか。これは一度ムーブメントを分解・洗浄し、新たに組み立て直して注油する一連の作業です。
機械式時計は3年~5年に一度はオーバーホールを行うことが推奨されており、その費用は数万円~モノによっては10万円程度。
一方のクォーツ式時計も、意外と知られていませんがオーバーホールが必要です。ステップモーターに付属する針の機構は機械的構造を持っているためです。しかしながらシンプルですので、7~8年に一度程度で済むこと。加えて費用も5,000円~2万円程度と安価ですので、メンテナンスの手間はきわめて少ないと言えるでしょう。
■磁気や衝撃に強い
機械式時計の大敵の一つ・磁気。大体の時計の不具合は磁気帯び・・・なんて言われることもあります。
磁気帯びとは、スマートフォンやパソコン・家電など、磁気を発する電子機器の傍に時計を置いたことで、時計のパーツが帯磁してしまうことです。機械式時計だと磁気帯びしたら専用機械で磁気抜きしたり、ひどい時は分解・修理しなくてはならないのですが、クォーツ式であれば機構がシンプルなため、磁気の発生源から離せば解決することがほとんどです。
このシンプルさは、衝撃・振動への耐久性にも繋がります。機械式時計はどうしてもパーツが多くなってしまうので複雑で、笑いながら手を叩いたらその衝撃で故障した、なんて話もあるくらいです。
クォーツ式は、多少の衝撃や振動であっても、機構に影響がないことがほとんどです(もちろん衝撃・振動はないに越したことはありませんが)。
デメリット
次にクォーツ式腕時計のデメリットをご紹介いたしますが、最近では技術が進歩し、このデメリットもブランドによっては克服されつつあります。また、好みの問題もあるでしょう。
そのため選び方によっては、デメリットと言う程気にならないものも少なくありません。
■機械式時計と比べると資産価値が低い
上記の「使い捨て」感は、資産価値の低さにも繋がります。
高級時計は、しばしば再販の対象になります。中には売値より高くなった!なんてことも・・・これは、機械式時計がメンテナンスをすれば末永く使っていけるという、永続性によるところが大きいです。
一方のクォーツ式腕時計はICの劣化など、いずれ寿命がきて使っていけなくなる、といった側面から、機械式時計に比べると資産価値は低いと言えます。
しかしながらこの資産価値を「一生ものの家宝」ではなく「リセールバリュー」のみで考えるのであれば、クォーツ式腕時計も捨てたものではありません。
グランドセイコーやタグホイヤー、オメガにブライトリングなどが手掛ける人気の高級クォーツ式時計は中古市場で活発に販売されており、時計買取専門店でも積極的に高額買取しているところは少なくありません。
また、寿命、寿命と言われますが、クォーツが登場してまだ60年ほど。そのため機械式時計ほど技術が確立していないからまだ修理不可であって、今後修理できるクォーツ式時計が開発されるかもしれません。また、寿命が短いと言ってもロレックスのオイスタークォーツなど数十年前の個体でも電池交換をすれば問題なく使えるものもあります。
そのため一概にクォーツ式時計が資産価値がない、とは言えません。
■高級時計ブランドだとクォーツ式モデルをラインナップしていないことも
ロレックスやブランパンなど、高級時計メーカーの中には機械式時計しか製造していないところも存在します。
また、パテックフィリップやオーデマピゲなどのように、クォーツはレディースラインのみをメインで出している、といったメーカーも。
クォーツ式時計の安価さや機構のシンプルさから、どうしても時計業界の中では機械式とクォーツ式を比べた時に、後者を格下と見る風潮があるためでしょう。
グランドセイコー クォーツ50周年限定モデル
しかしながら、もちろん高級時計ブランドでもクォーツ式モデルをラインナップしているところはたくさんあります。グランドセイコーやブライトリングなどは、クォーツを一大コレクションとして展開しており、そのファンは少なくありません。
こういったメーカーのクォーツ式腕時計は「高級クォーツ」などと呼ばれ、量産品とは一線を画しているので、ステータスシンボルとしても申し分ありません。
■トルク(力)が貧弱
機械式時計はゼンマイの力強さを動力源としている一方で、クォーツ式は電気信号によってステップモーターを稼働させ運針されています。そのため大きな電力を使うことができず、結果的にクォーツ式のトルク(力)は弱くなります。
トルクが弱いため針はどうしても軽く細い設計となってしまい、見た目が貧弱。また、プラスティック素材などを利用していたため、あまり長持ちしません。加えて機械式時計はそのトルクを利用してクロノグラフやGMTなどといった付加機能をモジュール的に備えることができますが、クォーツ式だとそれが叶わず、3針程度の単純な機構に留まってしまいがちです。
しかしながら近年では貧弱なトルクが克服されています。その代表格がグランドセイコーであり、クォーツ式でありながら機械式時計のように太く力強い針を実現しました。ちなみにクォーツのトルクでは困難であった日付のクイックチェンジも、グランドセイコーが可能にしました。
また、針を軽量な新素材を採用することで形状を自在にするなど、その工夫はどんどん進化していっています。
クォーツ式腕時計はこんな人にオススメ!
・実用重視派
・タイトなスケジュール管理が必要なビジネスマン
・コストパフォーマンス重視派
・時計にコストや手間があまりかけられない忙しい方
・初めて高級時計に挑戦される方
機械式腕時計のメリット・デメリット
次に、機械式腕時計のメリット・デメリットをご紹介いたします。
メリット
■味わい、ロマンなど趣味性が高い
「一度機械式腕時計にハマると、もうクォーツ式には戻れない」
そんな風におっしゃる方もいる機械式腕時計のメリット・中毒性は、機械が織りなす味わい深さにあると言えるでしょう。
繊細に仕上げられたパーツの数々、歯車の精密な動き、時計の心臓部であるテンプの回転など、挙げればキリがない程に機械式時計には華やかな魅力が詰まっています。
そもそも、現代に続く機械式時計の機構が確立された18世紀以来、その根本のシステムが変わっていないというのも胸が熱くなりますね。
■様々な機構を付加できる
前項でもお伝えしたように、クォーツはその構造上、3針が基本機能となります。近年ではクロノグラフやGMTなどが付加された個体もありますが、トルクが弱いためあまり複雑な機械を載せることができません。大容量にすればそれだけ高い電圧が必要となり、腕時計サイズでの実現がなかなか難しいのです。
一方の機械式時計は、モジュール的に様々な機能を付加することが可能です。それは前述した実用機能に留まらず、トゥールビヨンやミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダーなどコンプリケーションと呼ばれる超絶技巧にまで及びます。
ちなみに、ヴァシュロンコンスタンタンが2015年、創業260周年を祝して「史上最も複雑な時計」として打ち出したRef.57260には、なんと57もの複雑機構を搭載していました。そのムーブメントのパーツ数は1728だとか・・・
こういった「実用に必ずしも必要ではない機構」もまた、機械式時計の味わい深さ。さらに言うとトルクが強い分、針が太く長く、それでいて運針が滑らかなため、見た目の良さ・クラス感に一役買っています。
■ステータスシンボルになる
後述する「機械式腕時計のデメリット」の中に、価格が高くなる、といったものがあります。しかしながら上記の味わい深さがあるからこそ、その価格はステータスシンボルへと繋がります。
また、機械式時計を購入することは、しばしば「そのブランドの伝統を買う」と表現されます。
今でこそある程度はオートメーション化されていますが、熟練した時計職人たちでしか手掛けられないモノもあります。あるいは職人にしか出せない味わいも・・・そんな時計ブランドの伝統を、機械式時計を通じて感じることができると言えるでしょう。実際、世に溢れる時計には様々な価格帯のものが用意されていますが、50万円を超えるとなると、そのほとんどが機械式時計となります。そして、その時計たちは超一流時計ブランドによって作られているのです。
つまり、機械式時計を身に着けている=高い・あるいは良い時計を着けていると周囲から認識されることとなり、承認欲求が満たされます。
■分解修理が可能で末永く愛用できる
機械式時計はクォーツと違って、基本的には金属パーツを一つひとつ組み立てて製造されています。そのため不具合があった場合に分解して修理することが可能で、こういったメンテナンスをきちんと行えば数十年に渡って使用することができます。つまり、機械式時計の永続性に一役買っています。
もちろんそのメーカーでしか製造していない超絶コンプリケーションなどだと専用パーツが必要で、既に廃盤になっており修理不可、なんてケースもあります。しかしながらよく出回っている機械なら年月が経っていても汎用パーツと交換できることがほとんどです。
ただしカルティエなど、一部メーカーでは修理の際にムーブメントをまるごと交換する場合もあります。
■資産価値が高い
味わい深さ、ステータスシンボル、その構造ゆえの永続性・・・三拍子が揃うことで、機械式腕時計は、あらゆる製品の中でも屈指の資産価値を誇ります。なお、ここで言う資産価値とは、「家宝」でもあり「リセールバリュー」をも指します。
子や孫へ受け継いでいったり、再販して次に買う時計の元手にしたりといったことが一般的なのです。実際パテックフィリップなどは家宝となることが前提。そのため「永久修理」と呼ばれる制度を独自に設けており、製造から何年・何十年・あるいは100年経っていようが修理してまた使うこと顧客に提案しています。
さらに言うと、ロレックスなど人気ブランドであれば、時が経つにつれ”プレミア”がつくモデルが存在するのも機械式時計ならでは!
普通、パソコンなどの精密機器にしろブランド品にしろ、経年によって価値はどんどん下がっていきます。しかしながら時計はその資産性や永続性から、経年によって希少価値が高まり、買値の何倍もの相場を記録してしまう個体もあるほどです。
デメリット
クォーツ時計にデメリットがあるように機械式時計にもいくつかの注意点が存在します。ただ、このデメリットは見方によっては機械式時計の味わい深さとなり、人によってはメリットそのものの場合もあります。
■クォーツ式腕時計ほど精度が高くない
電子回路を駆使して動くクォーツ時計と比較すると、機械式時計の精度はどうしても劣ってしまうことが現実です。
月差±15秒~±30秒程度以内という精度を誇るクォーツ時計に対し、機械式時計は日差±20秒までが正常値とされています。
やっぱり差があるな、と思うかもしれません。
でも、精度がクォーツより劣るとはいえ、日常生活に支障がない程度の誤差です。毎日のように時計を触ってあげれば気にならないですし、毎日時計と向き合うことでその個体の不具合や違和感にもすぐ気づきやすくなるでしょう。
さらに言うと、現代の機械式時計の精度はどんどん向上されており、クロノメーターと呼ばれる高品質機械式ムーブメントは日差-4秒から+6秒以内、セイコーが作り上げたスプリングドライブというムーブメントは日差±1秒相当の精度を誇ります。
※ただしメーカーが発表する数値は、時計に一切の負荷を与えない環境で測定した数値ですので、実生活でご使用される場合、それ以上の誤差が出ます。
■磁気・衝撃・振動に弱い
何度か言及しているように、機械式腕時計は構造が複雑なため磁気・衝撃・振動に弱くなります。また、こういった不具合があった場合の修理も高額になりがち。
とは言え時計は精密機器ですから、デリケートになのは当たり前。これはクォーツ式にも言えることですし、スマートフォンやスマートウォッチなど高額なデジタルデバイスに対しても「取扱いに気をつける」ことは同じでしょう。
また、近年ではケースを堅牢にしたり、繊細なヒゲゼンマイをシリコンなど強度の高い素材にして磁気帯び・衝撃・振動対策を行っているメーカーは少なくありません。
※ロレックス独自のブルーパラクロム・ヒゲゼンマイ(画像出典:https://www.rolex.com/ja/watches/rolex-watchmaking/new-calibre-3255.html)
このように機械式腕時計のデリケートさは克服されつつあり、より実用的な製品が増えていっています。
■ゼンマイを巻かないと数日で止まってしまう
ゼンマイの力で動く機械式時計は、定期的にゼンマイを巻かないと動きを止めてしまいます。自動巻き時計の場合は腕につけていることで自然とゼンマイがまかれ稼働し続けますが、デスクワークをされている方など腕の動きが少ない方は、巻上げ不足になり停止してしまうことがあります。何もせずとも動いてくれるクォーツ時計と一緒の扱いをしてはいけないのです。
モデルによって駆動時間(パワーリザーブ)は異なりますが、ご使用にならなければ大体2日程度で動きは止まります。
とは言え定期的に時計と向き合うことで不具合が発見しやすくなりますし、手がかかる分愛着も湧いてくるものです。
■購入・メンテナンスともに高額になりがち
機械式時計はクォーツ式ほど量産できないため、どうしても価格が高くなります。また、機械的な構造が多いため、メンテナンスにも費用と時間がかかります。
しかしながら「メリット」でもご紹介したように、この価格の高さはそのまま資産価値の高さに繋がります。もちろんステータスも高くなりますね。
さらに言うと、確かにメンテナンスコストはかかりますが、それで十年・二十年・三十年・・・と使い続けていけるのだとしたら、新品の時計を都度買うよりもコストパフォーマンスは高いと言えるでしょう。
機械式腕時計はこんな人にオススメ!
・地位や年齢に見合った高級腕時計が欲しい
・機械式腕時計の美しさにほれ込んだ
・一生愛用していける腕時計が欲しい
・あわよくば売る時に得したい
結論:腕時計はクォーツ式と機械式、どちらがいいの?
最後にクォーツ式と機械式腕時計、どちらを選ぶべきかをまとめに替えてお伝えいたします。
最も大切なのは、ライフスタイルに合ったものを選ぶ、ということです。例えば毎日忙しくてスケジュール管理に追われている、というのであれば、より正確で実用性が高いクォーツ式腕時計が良いでしょう。反対にステータス重視であれば、機械式腕時計をご選択する方が多いのではないでしょうか(もちろんステータス性の高い高級クォーツもたくさんありますが)。
また、予算で決める、というのも大切です。予算に限りがある方はクォーツ式腕時計を。逆に50万円以上の時計を購入しようと思った時、その選択肢は機械式時計が多くなりますね。普段使いとは別のサブ機を探している、という方は、安価なクォーツ式を選んでも良いでしょう。
こういった条件に加えて、最後は自分自身が気に入ったものを選ぶことです。素敵だと思った時計を愛用する。それこそが腕時計の醍醐味なのですから。
文:鶴岡
あなたにおすすめの記事
この記事を監修してくれた時計博士
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年
タグ:時計の選び方