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2021年 時計業界を取り巻く8個の重大ニュース

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目まぐるしい変化に次ぐ変化を繰り返す現代社会において、明日が今日の延長線上などという考えはもはや過去のもの。

「伝統」「歴史」が重要視されがちな時計業界でも、もちろん例外ではありません。

時計業界の中で最も顕著なパラダイムシフトと言えば1969年のクォーツショックですが、今、それを超えるような数々の巨大なうねりが業界を取り巻いているのです。

そこでこの記事では、時計業界のドグマを根底から覆すような、近年の重大ニュース8個をまとめてご紹介いたします。

今起こりつつある大波はイノベーションか、はたまた文化崩壊か。
時計業界の明日はどっちだ!!

時計業界 ニュース

 

重大ニュース①新型コロナウイルスが後押しする時計ビジネスの変遷

今、最も熱い時計業界のパラダイムシフト。それは「時計の売り買い」に関する、ビジネス手法の変化にあります。
その立役者のほとんどを、インターネットが担うようになってきました。

しかしながらハイメゾンも少なくない時計業界。
これまで業界の一部では、「インターネット化」の拒絶も見られていたことは事実です

そんな業界に、インターネット化を余儀なくさせたのが新型コロナウイルスの影響です。

 

インターネットによって変わる時計ビジネス

時計製造・販売に携わる業界人だけでなく、消費者にとっても今や時計はリアル店舗や百貨店だけではなく、eコマースに拠る部分が大きくなってきています。

リアル店舗を構えるよりも維持コストが低く抑えられるだけでなく、お店の近くに住んでいない消費者でも簡単にお目当ての商品を購入できることから、ここ15年ほどで目を見張るほど拡大してきました。国内ではAmazonや楽天、Yahoo!ショッピングなどで買い物をしたことがない、という方は、じょじょに少数派になってきているでしょう。

何十万円もする高級品をネットで買うなんて・・・

eコマースにラグジュアリー産業が参入してきた当初はこんな風に囁かれていたものです。

eコマース事業の先駆けは、花卉業界(かき業界。フラワーショップなど)と言う話を聞いたことがありませんか?これは花という商材の性質上、十分な商品画像がなくとも販売者と消費者側で信頼関係が成り立ちやすいことが所以です。でも、高級品となると話は違ってきます。

「実物を確認できない」ことは、売買においてかなり致命的であったためです。

腕時計業界 ニュース eコマース

しかし前述の通り、ここ数年で多くの高級ブランドがECでの売上高でブティックに肉薄しています。

撮影素子など飛躍的な技術向上により、市販のカメラ(デジカメ、スマートフォン含む)で高画質な商品画像が撮れるようになったこと。加えてSNSや口コミサイトの大規模化によって、そのお店の信頼度を図りやすくなったことが背景として挙げられるでしょう。

デジタルネイティブ(1970年代後半頃~の生まれを指す用語。学生時代からネットやパソコンに親しんできた世代)が高級品の購入層に加わったことも、この事象を加速しているように思います。

 

面白いデータがあります。

2019年、日本百貨店協会が発表した全国百貨店の年間売上高は約5兆7547億円と4年連続で6兆円割れ。一方、物販系BtoCのEC市場規模は2019年、9兆2,992億円となりました。

もちろんEC市場の方は日用品や食品も含むため、市場規模としては百貨店に比べて当然大きくなります。また、小売り最大となるスーパーやコンビニなどに比べればまだまだEC市場は後塵を拝しています。

しかしながら、百貨店売上高は年々減少しており、20年前の約2/3ほどの規模に縮小してしまったことに対し、EC市場の方はと言えば拡大の一途。2025年までに、現在の約1.4倍にまで拡大する、という予測があります。

ちなみに前述した日本大手ネット通販三社だけ見ても約6兆7000億円規模と、既に百貨店を凌駕してしまいました。

百貨店もeコマースに進出し始めており、今後ますます「売買のインターネット化」が進むことは一目瞭然ですね。

このインターネット化の波は、ラグジュアリー産業、そしてここに含まれる時計業界にも間違いなく進出しています。

しかしながら冒頭でもご紹介したように、インターネット化の拒絶が高級時計ブランドを中心に根強かったことも事実。
この風向きを変えたのが、新型コロナウイルスです。

 

新型コロナウイルスによる時計業界のECシフト

ジュエリーやアパレル,バッグといったラグジュアリー産業がEC化していく中で、高級時計ブランドもその流れに追随していきました。

例えばウブロやタグホイヤーを筆頭に、カルティエやブルガリ、ブライトリングにジャガールクルトなど有名ブランドが公式ホームページで通信販売に参入、いわゆるオムニチャネル化が加速していっています。

一方でロレックスやグループ企業のチューダー,そしてパテックフィリップにランゲ&ゾーネ等、一部ブランドではオンライン販売を行ってきませんでした。

 

ラグジュアリー産業には、「伝統」「格」を重んじる風潮が存在します。

かつてハイブランドの時計を買う時は、それなりにおしゃれをして、ドアマンを通して店内に入り、コンシェルジュに購入相談をする・・・ともすれば格式ばったこの段階は、店側にとっても消費者にとってもある種のステータスでした。

そんな時代はもはや終焉を迎えようとしてはいますが、時計に関しては一概には言えません。

なぜなら、時計という性質上、「一度実物を触ってみたい」「試着してみたい」というニーズが、他の産業よりも高い傾向にあるためです。

とりわけ大量生産していないような、手作業で少量生産しているハイメゾンの製品などはこういったニーズが強いでしょう。仕上げの具合や機械の操作性等、オンライン上の動画や画像だけでは判断しかねる材料が少なくありません。

また、伝統と格式を大切にした売買形態こそ、そのブランドの魅力の一つだったりするものです。

ランゲ&ゾーネ

 

しかしながら2019年末から世界を震撼させた新型コロナウイルスによって、この伝統的な形式の変更を余儀なくされつつあります

ご存知新型コロナウイルス(COVID-19)という未知のウイルスによって、ヒト・モノの行き来が制限されることとなりました。

新型コロナウイルスはきわめて強い感染力を持ちますが、その感染経路に「飛沫感染」「接触感染」が大きく取沙汰されているためです。そのため極力、ヒトとヒトとの接触を避ける目的で、物理的な交流が激減しました。

これは国際間のみならず国内にも言えることで、不要不急の外出や移動に対してわが国でも自粛を求められているのが現状ですね。

そんな中において、オフライン上での売買が見直されてきています。

とりわけブティックは都心部にあることが多く、新型コロナウイルス感染が懸念されるような環境下に置かれやすいこと。併せてテレワークの導入や外出自粛の促進からヒトが集まりづらくなり、ブティック経営が立ち行かなくなるケースが懸念されていることから、ハイメゾンもインターネット化の必要性に迫られているのです。

この波、消費者にとっては利便性が高まったと言っていいでしょう。

確かにブティックに赴いて、コンシェルジュにあれこれ聞きながら時計を買う楽しみは減ってしまいます。

しかしながら新型コロナウイルスの感染リスクを低減すること。また、遠方に住んでいてこれまでブティックを利用する機会がなかった方でも、気軽に高級時計を購入できるようになったことと言うのは、大きな収穫と言えるのではないでしょうか。

ちなみにブランドによっては「返品規定」を設け、一定日数までの申告・返送で返品を受け付けるサービスを行っているところもあるようです。

 

ECだけではない時計業界のインターネット化・・・変わるブランド戦略

インターネット化によってもたらされたパラダイムシフトは、BtoCの直接売買だけではありません。多くのブランドが、根幹からの戦略変更を余儀なくされています。

その顕著な部分は、プロモーションにあります。

かつて、テレビCMや新聞・屋外広告がメインだった企業の販促。しかし、今はSNSや自社ホームページ、リスティング広告などインターネット上での展開がさかんとなりつつあります。

時計産業も例外ではなく、各ブランドがインスタグラムやフェイスブックの公式アカウントを通しての自社製品のPRに余念がありません。

時計業界 重大ニュース

そんな中、2018年7月28日に多くの業界人を驚かせるニュースが走ります。

世界最大級の時計グループ・スウォッチが、バーゼルワールドからの撤退を表明したのです。

バーゼルワールとはスイス バーゼルで行われている、やはり世界最大の時計・宝飾品の新作見本市です。ロレックスやパテックフィリップ、シャネル、タグホイヤーにウブロなどと言った有名メーカーが一堂に会し、その年の新作をお披露目していました。

しかしながらスウォッチグループが当見本市からの撤退を表明します。

スウォッチグループと言えば、オメガやブレゲ、ハリーウィンストンといった大物ブランドを抱えるコングロマリット。バーゼルワールドではロレックスなどと並び、「BIG5」と称されていました。そんな大御所が撤退と言うことで、上を下への大騒ぎになったことは言うまでもありません。

撤退の理由として、スウォッチグループのCEOであるニック・ハイエック氏は、SNSなどインターネット上での販促の広がりにより、高額な出展料を払ってまでバーゼルワールドに参加する旨味がなくなったことを挙げています。

この当時は完全にSNS上でプロモーションをまかなうのではなく、バーゼルワールドと同時期に「Time To Move(タイム・トゥ・ムーブ)」という独自見本市を開催することとなりましたが、昔ながらの手法が大きなターニングポイントを迎えていることは間違いありません。

オメガ スピードマスター 310.20.42.50.01.001

※Time To Moveで公表されたオメガの新作スピードマスター(画像出典:https://www.omegawatches.jp/ja/)

 

なお、このバーゼルワールド、このスウォッチグループ離脱事件以来、櫛の歯が欠けるように続々と各ブランドが離脱していきました。

2020年には新型コロナウイルスが決定打となり、その歴史に幕を閉じることとなります(もっとも、母体としては生き残りをかけて目下模索中のようですが)。

 

さらに同時期、SIHH(ジュネーブサロン)という、バーゼルワールドと並んで時計業界では重要な立ち位置を占める新作見本市も、変化を余儀なくされました。

しかしながらSIHHはバーゼルワールドとは命運が分かれました。SIHHでは名称をWatches & Wonders Geneveに名前を変え、オンライン配信を巧みに使うことで、2020年開催分で成功をおさめています

前述の通り、時計はその性質上、どうしても実物を見てみないとわからない面が多々あります。

とは言え新型コロナウイルスによって人々の行動が制限されている今、インターネットはあらゆる産業において、重要なプラットフォームとなっており、どの業界でも使わざるをえない状況となっています。

Watches & Wonders Geneve(SIHH)でも、オンライン配信での結果を好意的に見ており、あるいは今後時計業界の見本市の、スタンダードとなるかもしれません。

いずれにせよ、EC化と併せて、ブランド戦略のインターネット化が目下時計業界最大のパラダイムシフトと言えるでしょう。

 

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より顧客のユーザビリティを意識した戦略へ

ロイヤルオーク 15400ST シルバー

何度か言及しているように、時計業界は「伝統」「格式」が重んじられてきましたが、一方でそれは「旧態依然」にも繋がります。

バーゼルワールドの「出展企業離れ」もその一因でしょう。ちなみに出展企業が離れたことで、当然ながら客足も減少。例年バーゼルワールドには約10万人の来場客がありましたが、2019年度は8万人台に留まりました。

そして、2020年度は消滅の危機に・・・

もはや、バーゼルワールドというネームバリューだけでは顧客はついてこず、より顧客のユーザビリティ主体のブランド戦略が求められていることを意味します。つまり、「殿様商売では今の時代やっていけない」と。

その意識変化の一つのソリューションが、インターネット化へと繋がりました。

これは見本市だけの話ではありません。

今後、ブランド側もより消費者の目に留まりやすい・より消費者が使いやすいプロモーションや販売形態が意識されています。

インターネットの発達・普及により、様々な選択肢の大きい部分で、消費者にゆだねられるようになったのです。

 

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重大ニュース②過熱するM&Aとグループ間競争~LVMH,リシュモングループ,スウォッチグループ~

リシュモングループ

出典:https://www.richemont.com/

時計業界には様々なブランドが林立していますが、実は独自資本や生産ラインのもとに完全独立しているところはそう多くありません。

1980年代後半、世界最大級の高級ブランド・ルイヴィトンとシャンパンで高名なモエ・ヘネシーが合併してLVMHが創設されたのをきっかけに、ファッション業界ではいくつかのコングロマリットが覇権を争うようになりました。

ファッションとの親和性が高い時計業界でもこの風潮が波及していき、現在ではLVMH、リシュモングループ、スウォッチグループが三大勢力になっています。規模の大小問わず、多くのブランドはこのいずれかの傘下に加わってきました。

一方で「独立」と言われているブランドもないわけではありません。
たとえばパテックフィリップやオーデマピゲ、ロレックスといった時計業界の大御所を中心に、シャネルやエルメス、リシャールミルなどは上記いずれにも属していません。

ロレックス

しかしながらこれら独立ブランドも、どこかしらのブランドやサプライヤーを傘下に加え、資本提供と引き換えに技術やノウハウを吸収しているのが現状です。例えばロレックスは過去多くのサプライヤーを買収していますし、シャネルはベル&ロスやF.P.ジュルヌと資本提携しています。

ちなみに国内の三大時計メーカー―セイコー・シチズン・カシオ―もまた独立を保っていると言われていますが、独自M&Aで巨大グループを作り上げています。

とりわけシチズンはスイスメーカーの吸収に意欲的で、約30年、独立企業として歴史を紡いできたフレデリック・コンスタントを傘下に加えました。

シチズン

こういったグループ統合は、小規模ブランドでも安心して経営できたり、巨大資本を背景に商品開発に専念したりできること。加えて親会社としても自社が弱い分野でのノウハウを吸収できるということなどがメリットとして挙げられます。
一方でM&Aが過熱している、という事象も見られます。

とりわけコングロマリットは異業種・あるいは自社が弱い部分の業種のM&Aにかなり躍起になっている状態で、2019年末にLVMHが約1兆7000億円超でティファニーを買収した際は、多くのメディアで大きく取り上げられました。LVMHはリシュモンなどと比べて宝飾系が弱かったため、何が何でもティファニーが欲しかったのでは、と言われています。

もっとも、この買収劇は新型コロナウイスによる米国市場の混乱から、一時的に棚上げになっているようですが・・・

さらに、グループ間での競争もより熾烈になっています。

 

マニュファクチュール戦争やアフターサービス戦争

グループ間での競争が如実に現れたのが、「2020年ETA問題」です。

ムーブメントパーツを他社へ提供していたETA社(バルジューやユニタスなどのカルテル)ですが、同社が属するスウォッチグループ以外の企業へのエボーシュ供給を2020年以降停止する可能性がある、というのが当該問題です。

エボーシュとは未完成状態のムーブメント。ETAには、ロレックスにブライトリング、パネライにIWCなど、多くのブランドがお世話になってきました。

しかしながらこのETAからの供給を受けられなくなるとあって、スウォッチグループ以外のブランドは生産ラインの転換を余儀なくされます。

ETA7750 ムーブメント

出典:https://www.eta.ch

そこで沸いて出たのが「マニュファクチュール」です。

マニュファクチュールの定義は様々ですが、一般的にはムーブメント製造をイチから自社で一貫して手掛ける製造手法です。
実はマニュファクチュールは一つの付加価値になります。
ムーブメントは細かなパーツを緻密な設計のもとに一点のズレもないよう組み立てることで、スムーズな動作を発揮できます。そのため製造には高度な技術力を必要とする―すなわち、マニュファクチュールを実行できるブランドは高度な技術力を持つ」ことの表明になる、というわけです。

現在、種々の企業が「マニュファクチュール」のもと、自社製ムーブメントをローンチしています。

ただムーブメントを作るだけでなく、高精度を誇ったり、3日間・あるいはそれ以上のロングパワーリザーブを有したりと、付加価値を設けることも忘れていません。

そうして各ブランドが、自社製ムーブメントを競いあうようになったのです。

パテックフィリップ ムーブメント

このマニュファクチュール戦争は、また別の競争を呼び起こすこととなりました。それはアフターサービス戦争です。

アフターサービスは製品の購入後、何か不具合が起きた時に修理を行ったり、経年で古くなった個体のオーバーホールをしたりといった、各種メンテナンスです。

そして、近年各ブランドでは、こういったメンテナンスを無償で受けられる保証期間の延長合戦を繰り広げています。

どういうことかと言うと、従来は2年が多かった保証期間が、3年、5年・・・あるいは8年へと、順次延長されていっているのです(ただし保証対象や延長には各条件を満たす必要あり)。

ちなみに2015年、ロレックスが2年⇒5年保証へと変更したことから、この戦争は火ぶたを切って落とされました。2019年末には、リシュモン系が8年保証を発表し、今後ますます激化することが予想されます。

このように各企業間の競争が起こるということは、消費者にとっては嬉しい変化です。
どこも消費者に選ばれようと躍起になり、結果として消費者のユーザビリティを意識した改革が進められるためです。これは、前項でも言及しましたね。

一方で各グループの意向によってブランドの意思決定がなされることが多くなると、それぞれの企業文化が衰退したり、持ち味を出せなくなったりする危険性もあります。また、ETA問題のような、「独占」とも取られかねない戦略は、市場原理に対し不健全とも言われかねません。

2020年の動向を見守りましょう。

 

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重大ニュース③スマートウォッチが与えた高級時計市場への影響

ここ数年、シェアを拡大していっているスマートウォッチ産業。

発売された直後は、「スマートフォンがあるから必要無い」「機械式時計にはかなわない」と言われたものでしたが、2017年にアップルウォッチが収益でロレックスを凌いだ―そんなセンセーショナルなニュースが走ったことによって、時計業界にとってはよもや余裕をかましている場合ではなくなってきました。

腕時計型端末(ウェアラブルデバイス)の歴史は1980年代から始まりますが、現在のスマートフォンと連動できるスマートウォッチが開発されたのは2012年から。さらにアップルウォッチが発売された2015年以降、爆発的に市場を拡大していっています。

通信機能だけでなく時計としても申し分なく使用できることから、クォーツ時計市場に肉薄していっていることに間違いはありません。

しかしながら、スマートウォッチが高級機械式時計を完全に圧迫しているとも言えません

と言うのも、それぞれでターゲットとする顧客が異なり、棲み分けができているためです。例えばスマートウォッチの購入層は、「20代~30代の若年層、コストパフォーマンスや機能性を重視している方、スマートフォンをより便利に使いたい方」。対して機械式時計は「年齢35歳以上、ステータスを重視している方、社会的・情緒的価値を求めている方」をターゲットとして想定しているでしょう。

つまり、購入層を奪い合っているわけではない、ということを意味します。

ただ、やはり「ステータスシンボルと機能性を両立したい」というニーズは少なからず存在します。「スマートウォッチが欲しいけど、あのいかにもガジェットな外装デザインがちょっと・・・」といった方もいらっしゃいます。

そこで近年では、タグホイヤーやウブロ、ブライトリングにルイヴィトンなど、「高級ブランド」と呼ばれるメーカーが、スマートウォッチ事業に参入するようになりました。

これが、かなり功を奏しています。時計メーカーだからできる「美しいデザイン」「防水性や耐久性などといった時計としてのスペックが高い」といった魅力が受けているのでしょう。

 

また、一方で、カジュアルブランドはスマートウォッチとの購入層の奪い合いが起きているという事実もあります。

上記で挙げた高級ブランドであれば別ですが、価格帯10万円以下のカジュアルブランドウォッチだとターゲットが被っており(若年層、コスパ重視など)、苦戦を強いられています。

実は、LVMHやリシュモングループなど、高級ブランドが中心となったコングロマリットはここ数年売上を伸ばしていますが、プライスレンジが低いカジュアルブランドも少なくないスウォッチグループは、アップルウォッチが発売された2015年より、一時期成長が鈍化していました(2018年より復調傾向)。

もちろんスマートウォッチだけの影響ではありませんが、多くのブランドが対策を迫られていることは間違いありません。

 

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重大ニュース④鍵を握るのはアジア?スイス超えは目前か

高級時計といえばスイスやドイツのイメージが強いでしょう。

しかしながらその実、高級時計市場の半分はアジア圏が担っていることをご存知でしたか?しかも、中国やインドの動向によっては、今後も成長していくポテンシャルは決して低くありません。

「斜陽産業」と揶揄されることもある時計業界において、この動きは見逃せませんね。

ちなみに2019年のスイス時計輸入高の国・都市ランキングは第1位は香港、アメリカに次いで中国が続き、日本は4位(2017年までは5位)、シンガポールが6位。トップ10に、4つもアジア圏からの国がランクインしているのです(スイス時計協会FHより)。

 

また、スイス含む欧州圏または米国では、新型コロナウイルスが予想以上に深刻化。ロックダウンや緊急事態宣言に伴う工場閉鎖やショップの休業により、時計産業では2020年、成長に急ブレーキがかかりました。

もちろんこれはアジア圏にも言えることなのですが、日本および中国や韓国,東南アジア等は比較的コロナウイルスによる死者数が少なく、経済が完全にストップしたわけではありません。予断を許さない状況とは言え、今後スイスの時計輸出先は、さらにアジア圏がメインどころとなっていくことは想像に難くないでしょう。

ちなみに、G-SHOCKでおなじみのカシオ計算機では、コロナ禍における2020年6月、中国での事業拡大を発表しました。中国は当感染症の影響から真っ先に経済を回復させたこと。加えてアリババや京東といった巨大ECプラットフォーマーが存在し、EC戦略を立てやすいことから、一時期衰退したなどと言われた噂を一蹴し、再び時計市場としての注目度が高まり続けています。

 

バルジュー7750

 

なお、日本は「成熟市場」などと言われることもありますが、国内の時計市場はここ数年で目覚ましい成長を遂げています。

また、アジア各国が経済成長を遂げた結果、高価格帯製品の購入者数が増えていること。しかも、こういったラグジュアリーブランドの消費者の低年齢化(ヤング・ラグジュアリー)が進んでいることもアジアの好調ぶりに拍車をかけます。

今後、高級時計の大きなターゲットとなるであろうミレニアル世代やZ世代の人口を、先進国よりもアジア圏の新興国の方が多数持っている、というのも大きいでしょう。

香港

もちろんアジア圏にも不安要素はあります。

とりわけ2019年の香港情勢は、実質的に時計産業に大きな打撃を与えており、スイス時計業界によると、香港への時計輸出は大幅に減少していると言います。

香港はフリーポート(輸出入に関税のかからない地域のこと)であるため、他国で正規品を購入するよりも安く仕入れることができ、多くの時計バイヤーが訪れます。こういった経緯があり、香港では大規模な時計の業者取引所や時計見本市が定期的に開催されているのですが、情勢悪化で鳴りを潜めることが懸念されています。

 

一方で各メーカーの香港への出店がストップしたわけではないところを見ると、市場として存在感を示し続けていることがわかります。

ブライトリングは2019年末、新しいコンセプトストアを香港国際空港に出店し、カルティエも同空港内のブティックを大規模改装しました。また、2019年9月には例年通り、大規模時計見本市「香港ウォッチ&クロック・フェア」が開催され、多くの来場者が香港へ足を運びましたし、同年11月のフィリップス・オークションでは過去最高額でパテックフィリップのレアピースが落札されました。

このように、高級時計市場の大きい部分を占め続けているアジア。今後、世界的に市場を牽引していく、重要拠点と言えるでしょう。

 

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供給面でも時計市場を牽引するアジア

これだけアジア圏での需要が高まっているため、供給面でもまた躍進が顕著であることに不思議はありません。

実際、2017年の時計輸出は、唯一アジアだけが前年比5%を上回る数値を叩き出しました(日本時計協会より)。

その時勢を牽引しているのは、日本の雄・グランドセイコーです。

グランドセイコー 重大ニュース 時計業界

出典:https://www.facebook.com/grandseikojapan/?ref=page_internal

言わずと知れた日本を代表する腕時計メーカー・グランドセイコー。
国内では根強い人気があり、ロレックス、オメガ、タグホイヤーなどに並ぶ人気ブランドとして君臨しています。

華やかなスイス製に比べてどちらかといえば地味なイメージがありましたが、その魅力は正確性や機能性の高さ。他ブランドにはないコンセプトで、独創性を確立してきました。

 

グランドセイコーは2017年、セイコーから独立を果たします。ただ文字盤から「SEIKO」のロゴを取り去っただけでなく、真の目論見は新たなる世界進出

もちろんグランドセイコーの年間生産本数は10万本以下ほどと、ロレックスやスウォッチなど大手グループに比べればまだまだ下回ります。

しかし勝算はあるようです。

これまでの「コスパ重視」からラグジュアリー路線へ転換。同時に海外に旗艦店を増やしており、同年にはイギリス・ロンドンのプロンプトン通りに初となる直営店がオープンしました。

デザイン面にも変化が見られており、これまでの「最高の普通」というコンセプトだけでなくスポーティーラインも訴求。
日本らしい細やかさと海外ウケするかっこよさの融合は見事と言うほかありません。

重大ニュース 時計業界 グランドセイコー

出典:https://www.facebook.com/grandseikojapan/?ref=page_internal

もちろんグランドセイコーの海外進出はまだまだ始まったばかり。

しかし、アジア台頭の先鞭をつけていることに疑いはないでしょう。

 

なお、国内ブランディングにおいては、早くも功を奏してきたと言っていいようです。

先ほど「国内では根強い人気がある」と申し上げましたが、やはりロレックスやオメガといった海外ブランドと比べると、その人気は明らかに見劣りしていました。
もちろん製品自体は大変すばらしいもので、日本らしい高度な技術力とものづくりへの情熱を武器に、他社製品にはないきわめて高性能な時計を輩出してきました。

ただ、購入層の年齢が高く、デザインもシンプルなものが多かったためか、万人受けするブランドではなかったのです。

しかしながら前述の通り、デザインやコンセプトにも変革を行ったことで、若い世代の購入層を獲得しつつあります。
事実、当店でもこれまでグランドセイコーをご購入される方は圧倒的に40代・50代以上が多かったですが、今では20代・30代もメインターゲットとなっております。

国内でも同社の世界観を存分に味わえる「グランドセイコーサロン」の展開を増やしており、市場での存在感は確実に増していることを付け加えておきます。

 

グランドセイコーだけじゃない日本企業の躍進

グランドセイコーが奮闘しているとは言っても、スイスは巨大時計王国。
その牙城はなかなか崩せるものでもありません。

例えば、スイス製腕時計の年間売上高は2.17兆円と時計市場の5割以上を占めます。対して日本製は2602億円ほど。
ちなみにロレックスは約5500億円と言われています。

一方で少なくない日本企業がムーブメントなどの内部パーツを多く輸出しているといった事実もあるのです。

グランドセイコーだけに留まらずシチズンやカシオも海外進出に大きく前進していますので、ヨーロッパの市場規模が縮小している今は大きなチャンスと言えるでしょう。

 

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中国メーカーによる供給の加速

高級商材に欠かせない中国人の爆買い。先ほどアジア圏が時計市場を牽引していく、と述べましたが、そのリーダーは今のところ中国が担っていると言えるでしょう。

前述の通り、新型コロナウイルスの影響から復調しつつあること。加えて巨大なEC市場は、あらゆるラグジュアリー産業において虎の子です。

 

しかしながらその波が、「高級時計」においては失速しているのでは、と言われていることはまぎれもない事実です。

これは中国の景気悪化だけではありません。習近平政権下、「贈賄に高級時計が使われる」という世情を受け、取り締まりが厳格化するとともに、高級時計所持者というだけで公安から狙い撃ちされる風潮が出てきたこと。
加えて、輸入税が引き上げられ、外国製高級時計は最大47%もの関税が課せられてしまうという施策が大きな要因と見られます。

重大ニュース 時計業界 中国

中国政府の基本方針は「中国で作ったモノを中国企業から買わせる」こと。中国人は、自国の製品を信用していない、といったムードを打破させることが狙いでしょう。

個人の国内持ち込みにも高い税金を課し(行郵税)、かつ海外での人民元の引き出しに制限をかけたりと「チャイナファースト」を全面に押し出しており、時計業界への影響は決して少なくありません。
今はまだスイス製腕時計の対中国輸出は世界3位。

しかし、前述の法制度が施行された2015年~2016年にかけては輸出高自体を大きく下げてきました。

 

一方「供給」の側で中国が目覚ましい発展を遂げています。

安価で膨大な労働力を武器に、低価格帯の商品を大量生産。
「メイドインチャイナは中国人も信じない」なんて言われてきましたが、むしろ輸出量でスイスを凌駕してしまったのです。

重大ニュース 時計業界 中国

そしてもう一点。
最近の中国での時計産業において見逃せないポイントがあります。

中国における海外製の失速はスイスには痛手ですが、日本にとってはむしろチャンス。というのも、ここ数年eコマースが中国でさらに拡大しています。

先程述べた利便性に加えて、越境EC(国際的な電子取引)に関しては中国政府は税金を引き下げており、また対日感情が緩和したため日本にとっては追い風となってきているのです。

中国の人口や市場規模を考えると、今後ますますEC市場は巨大化していくでしょう。
やはりいつの時代も中国が持つ産業への影響というものは計り知れません。

 

シンガポールが担う巨大市場

かつて、巨大企業が安価な労働力を求めて工場進出していた東南アジアに今一体何が起きているのでしょうか。

実はシンガポールがスイス時計輸入高世界ランク6位という超巨大市場として君臨しているのです。

シンガポールの国土は約719.2平方キロメートルと、日本の淡路島くらい。
対して人口は560万人以上と、世界屈指の人口密度を誇ります。

国内総生産(GDP)は一人あたり52,960米ドルと世界9位。
そういった富裕層の多さや狭い国土ゆえ車の購入者が少ないことが高級時計への購買意欲に関係してきているのでしょう。

実は、時計産業にとっては需給ともにドル箱である香港にもシンガポール資本の時計屋は少なくありません。
各国の正規店も軒を連ねます。

そういった意味では、時計業界に大きなイノベーションを起こす一つのキーパーソンといった立ち位置かもしれません。

重大ニュース 時計業界 シンガポール

 

 

重大ニュース⑤スイス時計の明日はどっちだ

60年代後半のクォーツショックから返り咲いたスイス時計産業。
ロレックス、パテックフィリップ、オメガブレゲ・・・

有名ブランドの多くはSWISS MADEの表記を誇らしげに掲げています。

しかし、アジアの台頭やeコマースによる売買ルートの変化で、新たな局面を迎えつつあります。

今後のスイス時計産業はどのようなものになるのでしょうか?

 

新スイスネス法の施行

中国や東南アジアなどに工場を構え、外国製のパーツや外装を使用し、スイスメイドのムーブメントを内蔵する・・・
そんな「ものづくり」には今や当たり前となったスタイルに、待ったがかけられたのです。

それが2017年1月1日より施行された新スイスネス法

腕時計業界 ニュース スイスネス法

 

これは、「スイスメイド」と表記するためのルール改正で、ムーブメントは製造コストに対して6割以上(施行当時は5割以上だったが引き上げられた)がスイス製であり、外装の取り付けがスイス国内で行われていて、かつ最終検査もまたスイスで行われなくてはならない、と取り決めたもの。

消費者にとっては「スイスメイド」へのさらなる安心感が約束され、さらにアジア製時計に対抗するために万難を排して制定されたと言います。

これまで「手作業」を全面に押し出し、機械化や「大量生産」という考え方をどこかタブー視していたスイス。

その考え方は飽くまで建前であったと思いますが、スイス政府自体が「古式ゆかしい伝統的時計製造の、復権を担ってやろう!」とやる気になってしまったのでしょうか。

大手メーカーにとってはそこまでの痛手はありませんでした。
同国内の工場の機械化をさらに促進したり、部品供給はアジア諸国に任せ、それを国内で再組み換えするような「ロンダリング」を行ったのです。

重大ニュース 時計業界 スイス

しかし小中規模メーカーにとってはそうも言っていられません。
そもそも人件費の高いスイス国内で割けるコストは少なく、また大手のようなロンダリングルートを確保することも難しいでしょう。

消費者側も諸手を上げているかといえばそうではなく、「パーツの大部分が中国製でいいから、価格を下げてくれ」と言う声も聴かれます。

スイスネス法は、スイス時計産業を押し上げることになるのか?それとも衰退の原因となるのか?

今後の動向から目が離せません。

 

 

重大ニュース⑥新たな曲面を迎えたマニュファクチュール戦争

ETA社がスウォッチグループに買収され、にわかに噴出したETA問題は先ほど解説した通りです。そして、最近のマニュファクチュール戦争が形成されていきました。

マニュファクチュールには膨大な開発資金が必要なため、多くのブランドが巨大グループ傘下に加わるなど業界対立構造を激化させる一因にもなったものです。

重大ニュース 時計業界 マニュファクチュール

当時は止むにやまれず・・・といった具合で始まったマニュファクチュール戦争ですが、今や大切なブランドの付加価値として息づいています。

カルティエなどジュエリーブランドでさえも、自社一貫製造ムーブメント搭載機に力を入れるほど。

そんな競争の曲面は新次元へと突入しました。

 

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新構造の開発

ゼンマイを駆動力とする機械式時計の構造は、古来から変化がありません。

リューズを巻くとゼンマイが巻き上げられ、それが戻ろうとする力により輪列機構に伝達。
そしてその力を調整する脱進機が精度を与えてくれる、という、昔ながらの手法。

しかし、その機構にメスを入れたブランドが出てきました。

重大ニュース 時計業界 ゼニス

ゼニスは2017年、厚さ0.5mmの単結晶シリコンで作られた新型オシレーターを開発。
これは、一体式構造となったシリコンで、なんとこれ一枚でテンプやヒゲゼンマイを含む調速機構の役割を果たすのです。

このオシレーターのすごいところは15ヘルツという周波数で振動すること。
この驚異的な振動は通常の3倍高く、毎時10万8000振動とのこと!

規格外の精度を実現しているにもかかわらず、エル・プリメロを凌駕する約60時間のパワーリザーブを実現していることは見逃せません。

重大ニュース 時計業界 ゼニス

出典:https://www.zenith-watches.com/en_en/movements

この新開発の流れは、ムーブメント競争に新たな火種を投入したと言えるでしょう。

もちろん日本が誇るグランドセイコーのスプリングドライブや、ロレックスの「日付変更禁止時間帯」を一掃した新キャリバーだってかつては考えられなかった境地。

シリコン始めとした新素材が広く行き渡ってきたということも含めて、今最も目が離せない新時流と言えます。

 

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重大ニュース⑦クラウドファンディングによって小規模ブランドが起こす「新しい風」

冒頭でインターネットが時計業界に起こしたイノベーションをご紹介いたしましたが、影響を受けているのは有名ブランドだけに及びません。

否、むしろ、小規模メーカーが有名ブランドにとって代わるかもしれない下克上が起こりつつあると言ってもいいでしょう。

専用サイトを通じての資金調達を可能にしたクラウドファンディング
アーティストの支援や政治活動、研究開発や起業など様々な分野と出資者がマッチング、サポートを実現するという手法です。

クラウドファンディングの最大のメリットは、限られた費用や販売ルートの中で資金調達が可能なこと。
そして、日本未上陸だったり斬新なアイディアを持つ起案者への応援を実現できることにあります。

クラウドファンディング

有名なクラウドファンディングサイトは、北米のキックスターターやヨーロッパ圏のインディゴーゴー。
2018年は、パワーウォッチなどを手掛ける出版社シーズ・ファクトリーによる日本初の時計専門クラウドファンディングサイト「ウォッチメーカーズ」がスタートしました。

モノローグやアンダーンなど、新進気鋭の小規模ブランドが脚光を浴びています。

こういったクラウドファンディングから最近出てきたブランドの知名度は、まだ皆無に等しいでしょう。
しかし、モノローグは「10万円台でかえる国産本格自動巻きクロノグラフ」と謳っており、コストパフォーマンスだけでなく国産では珍しいツーカウンタークロノであることが注目されており、まさに知る人ぞ知るブランドです。

クラウドファンディング 時計 モノローグ クロノグラフ

出典:https://www.facebook.com/monologue-1569810193312775/?ref=page_internal

こういったクラウドファンディングが時計業界に与える有意義な影響として、「多様化」が挙げられます。

高級腕時計はトレンドに変化が乏しく、新興企業というのは流通しづらい現状があります。

そんな現状を打開してくれるのがクラウドファンディングによって夢を形にした挑戦者たち。

時計業界に新しく吹く風は、小規模メーカーが起こしていくのかもしれません。

スポンサーを始めファンが多くなれば、大手ブランドを凌駕していく可能性だって十分あるでしょう。

 

重大ニュース⑧広がるサスティナビリティ

サスティナビリティとか、CSRとかいう用語をご存知でしょうか。

サスティナビリティは直訳すると「持続可能性」という意味で、システムやプログラムを持続的に使用していけること。CSRはCorporate Social Responsibilityの略称で、企業の社会的責任を指します。

簡単に言うと、企業は自社の利益追求を行うだけではなく、地球やそこに生息する動植物が継続できるシステム・プロセスを構築することを言います。
地球上の資源や動植物を過剰消費して絶滅に追いやるのではなく、自然環境に配慮した製品開発を行っていこう、といった社会的な取り組みです。

このサスティナビリティはあらゆる産業に広まっており、時計業界もご多分に漏れません。
例えばブライトリングではリサイクル素材「エコニールヤーン」を使用したNATOストラップ付スーパーオーシャンをリリースしたり、IWCでは時計製造センターの稼働をソーラーパネルなど再生可能エネルギーでまかなっていると言います。

スーパーオーシャン M275C-1CMA

 

また、先日は「都市鉱山」を製品素材として利用する試みが、時計業界で初めて行われました。

都市鉱山とは、いらなくなった携帯電話やスマートフォン、デジタル家電に潜むレアメタルのことです。
半導体として上記デバイスには金や銀,パラジウムといったレアメタルが用いられているのですが、それらは現状、廃棄されることとなります。

せっかく費用をかけて採掘したレアメタルをそのまま捨ててしまうというのはもったいないし、限りある資源の浪費ーサスティナビリティに反するーに繋がりますね。

そこで、この廃棄されるはずだったレアメタルを使った時計を製造しよう、という取り組みが始まりました。

既にジュエリー業界では「リファインメタル(再生貴金属)プロジェクト」として、この都市鉱山をジュエリーに利用し始めています。
ただ、時計はどうしてもパーツ数が多く、あまり注目はされませんでした。
今回、この都市鉱山を利用した時計「Gabage Watch」を開発したのも、時計メーカーではなくイギリスのアパレルVollebak(ボレバック)です。

ちなみに、その製品がこちら。

出典:https://www.vollebak.com/product/garbage-watch/

とてもユニークな時計ですよね!

確かにまだ時計業界に都市鉱山の概念は根付いていません。

しかしながらサスティナビリティは、前述の通り多くの企業にとって大切な命題です。

今後、リファインメタルプロジェクトが業界の一つのスタンダードとなり、地球にも優しい、それでいて消費者にとっても面白い製品が出てくるかもしれませんね!

 

なお、二次流通市場(中古市場)の発展もサスティナビリティの一環と言っていいでしょう。

時計は精密機器ですので、新しいものほど優れた性能を発揮することは事実です。一方で駆動力がゼンマイであるため、メンテナンスさえ行えば持続的に使用していける魅力があります。

「使い捨て」ではない、永続的な資産としての価値を持っているため、使わなくなっても次にほしい人のために受け継いでいけるのです。

中古時計と言うと「安く買える」メリットばかりが取沙汰されますが、サスティナビリティにおいてはとても重要な要素です。実際、今ではリシュモングループがウォッチファインダー(二次流通品の販売企業)を買収したり、フランクミュラーやリシャールミルなどが認定中古を始めたりと、メーカーも二次流通市場への関与に積極的です。

このように、地球環境や社会的責任を広く考えられるブランドへのニーズは、これからますます時計業界で高まっていくでしょう。

 

成熟した時計業界が向かう先は?

重大ニュース 時計業界 

これまでご紹介してきた重大ニュース。
時計業界にとっては、手放しに吉報と呼べるものではないかもしれません。

しかし、技術面に目を向けてみれば新開発や新機構、幅広い層の消費者に即した実用的な機能の訴求。
SNSやメディアを通じてより透明に、より身近になったBtoC。
多様化した価値観に対応するため、同ブランド内での価格帯や方向性における棲み分け。

何より、高級時計購入層の知識や情報量が非常に豊富になってきており、業界全体のレベルが格段に上がっていることは明白です。

このように、「産業」としては非常に大きな拡大を見せており、成熟した市場を形成していると言えます。

冒頭で述べたように目まぐるしく変化を遂げていっていることに間違いはありません。

国境や会社規模にかかわらず、こういった時勢を読む目がどのブランドにも求められていくでしょう。

 

まとめ

刻一刻と潮流を変えていっている時計業界。

それはイノベーションでもあり、古き良き伝統の崩壊という曲面もあるでしょう。

一方で時計を売る側も買う側も成熟した産業というのは、やはり商材そのものに魅力があるから。その事実がある限り、今後の時計市場に対し悲観というよりも楽しみな気持ちが大きく勝るものです。

起伏激しい時計業界、明るい明日に向かって走れ!!

文:鶴岡

 

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この記事を監修してくれた時計博士

南 幸太朗(みなみ こうたろう)

(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ

学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。

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