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WEBマガジン, 時計の雑学, 田中拓郎

ロシア・ウクライナ危機が変える時計市場。業界の動向はいかに?

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2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、今や世界各国に大きな影響を及ぼしています。

先進国ではロシアの軍事行動に非難の意を示すために経済制裁がスタートし、また各企業も事業撤退の動きが広がることとなりました。

そんな中、時計業界も決して無関係というわけにはいきません。なぜならロシアは、世界的に見ても小さくない時計市場の一つであるため。時計業界内でも撤退するブランドが相次ぐ今、ロシア市場を中心に、大きな波紋を呼んでいます。

この記事では、ロシア・ウクライナ危機によって時計業界が見せた動きと、実勢相場等、今後への影響について解説いたします。

 

ウクライナ危機から見る時計市場①ブランド・事業各社がロシアから撤退

日経新聞が報道した米エール大学の集計によると、2022年3月13日時点で、ロシアからの事業撤退・縮小を公表した企業は350社に到達するとのことでした。その中にはアップルやマクドナルド,スターバックスにアディダス、ユニクロなどといった飲食・リテール企業はもちろん、トヨタなどの製造業、金融機関などが名を連ねます。

こういった企業はロシアへの抗議の意味合いはもちろん、併せて物資調達に不安を抱えての決定も背景にあることでしょう。

そして、時計業界からも撤退を開始した企業が散見されます。

もっとも時計業界での動きは「遅い」などといった批判もあったようです。詳細は後述しますが、高級時計は資産です。ロシアにはオリガルヒと呼ばれる、国内でごく少数の豊かな生活を送っている富裕層が存在するのですが、現政権を資金面で支えていると言われています。このオリガルヒが貯蓄を時計に替え、資産を守る動きを助長するといった側面が高級時計ブランドの販売継続にはあったためです。

しかしながら3月初旬、スウォッチグループがロシア国内での供給を一時停止すると発表します(店舗営業は続いていたようです)。

次いでLVMHグループとリシュモングループも、ロシア国内での事業停止を公表しました。これにはケリンググループも続いており、主要コングロマリットのウクライナ侵攻への姿勢はおおむね揃ったと言えるでしょう。ちなみにLVMHはウクライナでの戦禍による犠牲者のために、500万ユーロを赤十字へといち早く支援していたコングロマリットでもあります。

3月8日には、ついに時計業界の大御所ロレックスも供給ストップに加わることがBloombergより報じられます。

ちなみにブライトリングは既に2月28日にロシアへの製品供給を停止していたようです。なお、ブライトリングCEOのジョージ・カーン氏はロシアのウクライナ侵攻への街頭抗議に参加しています。

そしてオーデマピゲとリシャールミル、パテックフィリップもこの流れに追随することとなりました。

 

さらに特筆すべきはChrono24(クロノ トウェンティーフォー)の動きです。

ロレックス エクスプローラーII 16570

Chrono24とは、2003年に設立された、高級時計専門の巨大ECプラットフォームです。越境ECを行い、さらに22か国の言語に対応していることがミソ。また独自の買い手保証制度やコンテンツ制作を担うなど、時計業界に新しい風を吹き込んでいる立役者的存在です。

このChrono24も、3月1日にロシアでの取引停止を表明しました。なおロシアからの出品もサイトから除外されている状況です。同時にウクライナを支援するキャンペーンも従業員間でスタートしているとのこと。ウクライナ現地からのニーズに合わせて、物資を供給できる仕組みを構築していると言います。

 

以上のことからもわかるように、他の企業同様に時計産業からも、ロシアからボイコットしようとする動きが見られています。

 

なお、冒頭でも述べたように、時計業界にとってロシアは決して小さい市場ではありません。

スイス時計協会(FH)が公表した2021年の統計によると、スイス時計輸出額で見た時、ロシアは世界第17位の市場となります。ちなみに2020年と比べると+35.3%、2019年(新型コロナウイルス直前の2019年は、時計市場にとって非常に好調な時期であったため、しばしば同じく好調であった2021年との対比に使われています)と比べても+30.6%と、大きな成長を遂げている市場でもあります。同時に、ロシアへのスイス時計総輸出額は1億9140万スイスフランとなっております。

 

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ウクライナ危機から見る時計市場②ロシア国内での高級時計需要が上昇

パテックフィリップ ノーチラス 5990/1A

ロシアへの度重なる経済制裁や主要企業の撤退によって、ロシア通貨・ルーブルが大きく下落しています。企業撤退はもちろん、金融制裁もまた下落の大きな要因となっているのでしょう。とりわけSWIFT(スイフト;国銀行間通信協会)がロシアの大手銀行を排除したニュースは衝撃的でした。SWIFTの制裁はまだロシアの一部銀行に留まっているものの、今後ルーブルが外貨に換える手段が失われていけば、さらなる下落は免れません。

そんな中で、高級時計への買いがロシア国内では加速しています。

いったい、どういうことなのでしょうか。

 

円が強い日本ではあまりイメージが湧かないかもしれませんが、通貨価値が危機に陥るような有事の際、資産防衛のために金やプラチナなどといった換金性の高いモノに買いが集中することは珍しくありません。そのため有事の際には、とりわけ金の相場が高騰し、逆に社会情勢が落ち着いている時は相場が下がるなどといったことも見られます(もっとも近年では高騰続きとなっており、必ずしも従来のセオリーが適用されるとは限りませんが)。

金も情勢によって相場の上下はあるものの暴落するといったことは長い歴史の中で考えづらく、安全資産などと称されることもあります。

そして「換金性の高いモノ」として、実は高級時計も名を連ねることをご存知でしょうか。

全ての時計が、というわけではありません。しかしながら世界的に人気が高く、活発に売買されているモデルは他の安全な地域の通貨で換金しやすく、また換金場所(日本で言うところの買取店等)も豊富に存在する傾向にあります。腕時計は金の延べ棒などと異なり、持ち運べるといった利点もありますね。

そのため自国通貨が下落した時などにはいったん資産性の高い高級時計を購入しておき、必要に応じて換金するというわけです。

ヴァシュロンコンスタンタン オーヴァーシーズ 5500V

この高級時計への買いが、ロシア国内で活発になってきています。

そして、この買いを加速させている―爆買いしている―存在として問題視されているのがオリガルヒです。

オリガルヒは新興財閥などとも称されることのある、ロシアの一部富裕層です。ギリシャ語の寡頭制(かとうせい。少人数による統治)が名称の由来です。

オリガルヒはソ連が崩壊した1990年代以降、国有企業が民営化されていく過程で巨額の富や利権を得ていった実業家を指しており、同時に政治的な影響力を持つことでも知られています。プーチン大統領はオリガルヒの排除を進めていたようですが、一方で自身に忠誠を誓う面々にはその利権を認め、資金面で支えとしても活用してきました。

全てのオリガルヒがロシアのウクライナ侵攻を支持しているわけではありません。最近では、オリガルヒからも反戦の声が少なくない事態です。しかしながら一部のオリガルヒの資金力がプーチン大統領を始めとした現ロシア政権の基盤の一つとなっていることを重く受け止めた各国・各海外企業では、オリガルヒに対する経済制裁にも着手していくこととなりました。

 

高級時計や宝飾品販売をロシア国内で続けることは、こういったオリガルヒの資産防衛を手助けすることになる。

このような批判もあったことから、各高級ブランドやChrono24はロシア国内での取引の一時停止を敢行したのでしょう。事実、Bloombergが3月初旬に報じたところによると、LVMHグループ傘下のブルガリでCEOを努めるジャン-クリストフ・ババン氏はロシア国内でのブルガリの売上が伸びていることを認め、ブルガリのジュエリーを安全な投資先と説明しました。なお、既にLVMHグループがロシア国内で事業を停止していることは、前述の通りです。

ブルガリ レディース人気モデル12選

出典:https://www.facebook.com/Bulgari/?ref=page_internal

オリガルヒに限定せず、ロシアの富裕層の高級時計への需要集中は、世界的な時計市場の相場に大きな影響を与えるのではないかと懸念されていました。

もともと高級時計の資産性がとみに話題になっていたこと。加えてアジア各国を中心に世界的な需要が高まり、市場が拡大していることなどから、実勢相場の高騰は近年の時計業界のトピックの一つでした。ここにロシアのウクライナ侵攻が重なった結果、さらに相場が上昇し、一部人気モデルはいっそう急騰してしまうのでは・・・?などといった懸念ですね。

今現在(2022年3月)はロシア市場が、各国の時計市場に大きな影響を及ぼしていることは見受けられません。

しかしながら今後ロシアの戦争への手が止まず、各国からの経済制裁が続行し、あまつさえデフォルトなどといった事態に陥れば、相場への影響のみならず、ロシアの時計市場・ビジネス自体が大きな打撃を受けることとなります。

決して世界的に見ても小さくはないロシアの時計市場の混乱は、各ブランドにとって無視できない事態となることは言わずもがな。

また、ロシアは実は機械式時計の製造地でもあります。欧州や日本とはまた違った、独特のブランドや時計師が育った国土があります。そんなロシアの時計製造が現政権の侵攻による影響を受けてしまうとしたら、時計好きとしてはやりきれない思いを禁じえません。

ロシア・ウクライナの戦争が早期に終結し、どの市場もまた正常化することを、願ってやみません。

 

ウクライナ危機から見る時計市場③今後の時計業界への影響は?

ロレックス デイデイト

前述の通り、世界的に見ても一定の規模を有するロシアの時計市場。このまま混乱が続けば、時計ブランドは一つの市場を失いかねず、大きな痛手となることが予測できます。

これに加えて懸念事項の一つが「原材料の高騰」です。

ロシアは多くの資源を抱える国です。

とりわけ原油が基幹産業となっており、経済制裁の一環でアメリカ・イギリス・カナダが禁輸に踏み切ったことは既に大きく報じられています。これに伴い原油高騰が既にみられており、今後深刻化していくことが懸念されています。そうなってくると輸送コストが上昇し、結果としてメーカーが輸出入数の見直しや価格改定に踏み切らざるをえなくなるといったシナリオは、十二分に考えられます。

 

またロシアは鉱物資源も豊富です。

これもまた既に大きく報じられていますが、ロシアはパラジウムの一大産地です。

パラジウムは白金族元素の一つ。融点が低く加工性に富み、また水素貯蔵に一役買うことで知られているパラジウムは、自動車の排気ガス中の有害物質を取り除くための触媒であったり、燃料電池の電極であったりと、様々な分野で活躍している貴金属です。

パラジウムの存在感は時計・宝飾品業界でも絶大です。時計やジュエリーの素材そのものになることは少ないですが、「同じ白金族元素のプラチナよりも硬度が高い」といった理由から合金としてよく使われており、Pt950(プラチナ)やホワイトゴールドに含有されることは珍しくありません。

そしてパラジウム供給の4割はロシアが担っていると言われており、万が一ロシアが「逆制裁」として供給ストップなどの措置を採れば、大きく価格高騰することが考えられます。パラジウムショックなどと称されますね。

なお、ロシアはアルミニウムやニッケル,チタンの供給でも知られており、こういった鉱物資源の供給が不安定になった結果、原材料が高騰してメーカーの生産数に影響が出たり、製品価格に反映せざるを得ない状況になることは否定できません。

ロレックス デイトナ 116506

もっとも完全に供給ストップとなることは考えづらいです。中国などの第三国経由で、市場に流通していくといった見方があります。

しかしながら調達懸念によって既にパラジウムは過去最高値の価格を更新することとなりました。パラジウムの用途として挙げられる「銀歯」などは高騰による影響を大きく受けており、歯科医からは不安の声が上がっているとも聞きます。

 

ロシアが孤立し、経済危機が長引けば長引くほど世界の各産業への影響もまた深刻化していきます。

前項でも述べたように、そして世界の多くの人間が祈っているように、戦争がこれ以上拡大せず、早期に解決することが何よりも重要と言えるでしょう。

 

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まとめ

ロシアのウクライナ侵攻が及ぼす、時計市場・業界の影響について解説致しました。

現在、ロシアでは時計ブランドの事業休止や撤退が行われ、また各国の経済制裁によって経済危機が深刻化しています。政権がウクライナ侵攻の手を止めない限り、この状況は続いていくと見られており、結果として各産業界では混迷をきわめていくことでしょう。

時計業界も無関係ではないことは、本稿で述べた通りです。

世界情勢については門外漢とはなるものの、急激に悪化するロシア経済やウクライナ戦禍を見るにつけ、早期の安定化を願ってやみません。時計業界でも新しい動きがあれば、また当サイトでもお伝えしていきたいと思います。

文:鶴岡

 

 

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この記事を監修してくれた時計博士

田中拓郎(たなか たくろう)

高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター

当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年

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