腕時計のさまざまな機構の中でも、構造が特に複雑で作製に高い技術を要する「世界三大複雑機構」。小さなケースの中で繰り広げられる複雑機構の繊細なつくりに魅了される方も少なくありません。今回は、そんな世界三大複雑機構についてご紹介します。
目次
世界三大複雑機構とは?
機械式時計には、構造が複雑な機構があります。数多くある機構の中でも、「トゥールビヨン」「永久カレンダー」「ミニッツリピーター」という3つの機構は、世界三大複雑機構と呼ばれます。これらは機械式時計の中でも最高峰の機構といわれており、作り上げるのに高度な技術が必要とされています。
それぞれの機構には、以下のような特徴があります。
トゥールビヨン
トゥールビヨンは、重力の影響によって生じる時計の誤差を補正・調節する機構です。腕時計は常にさまざまな方向を向いているため、歯車やゼンマイ、テンプなどの機能に負担がかかりやすく、使用しているうちに時差が生じやすくなってしまいます。これは姿勢差と呼ばれ、その影響をより少なくするための機構がトゥールビヨンです。
一般的な時計は「時計の心臓」と呼ばれるテンプに付属しているゼンマイを伸縮させることでテンプを行き来させて秒針を進めますが、トゥールビヨンはテンプを一回転させることでゼンマイの負担を軽減しています。
永久カレンダー
永久カレンダーは、4年に一度のうるう年も自動調節できるカレンダー機構です。一般的な腕時計のカレンダー機構は、毎月30日、31日、1日に日付変更が必要だったり、うるう年がある2月に調節しなければならなかったりするものも少なくありませんが、永久カレンダーは時計内のプログラムで自動調節される仕組みになっています。毎日作動していれば、数百年間は正確なカレンダー表示をするといわれています。つまり、永久カレンダーとは現在が何月何日何曜日なのかを半永久的に判断し、日付調節を不要にさせる機構なのです。
ミニッツリピーター
ミニッツリピーターは、音で時刻を知らせる機構です。低音や高音などで音色を分けて1時間間隔、15分間隔、1分間隔の3種類の音で時刻を知らせます。例えば、1時間単位を知らせる音が7回鳴れば7時、15分単位を知らせる音が1回なら15分、1分単位を知らせる音が10回なら10分というように、3種類の音で時刻を知らせます。ミニッツリピーターが開発された当時はまだトリチウム(発光塗料)がなかったため、暗闇でも時間を把握できるようにと作られました。トリチウムが発明された現在、ミニッツリピーターの用途は音で時刻を知れることよりもその複雑な構造に魅せられた人たちから人気を集めているようです。
世界三大複雑機構は、すべての時計ブランドが作製できるわけではありません。よって、ブランドにとっても持ち主にとっても、ステータスの高い特別な機構であるといえます。時計は決して時間を知るためだけのものでなく、憧れやロマンを満たすアイテムなのです。
世界三大機構が搭載された腕時計ブランド
以下では、世界三大複雑機構を含んでいる、複雑時計としておすすめのブランドをご紹介します。
パテックフィリップ
パテックフィリップは、当時懐中時計に組み込まれていた永久カレンダーの機構を、初めて腕時計に搭載させたブランドです。現在では世界三大時計メーカーのひとつに数えられおり、その中でも飛び抜けた存在感を放っています。パテックフィリップは、1811年にアントワーヌ・ド・パテックとフランソワ・チャペックにより、Patek,Czapekco.を創業したことがブランドの始まりです。1851年にフランソワ・チャペックに代わり、ジャン‐アドリアン・フィリップがパートナーとなり、2人の姓を組み合わせた「パテックフィリップ」が誕生しました。「世界一の時計を作る」という2人の理念の基、世界の時計制作を大きく進歩させ、歴史に名を刻みました。パテックフィリップは、世界が認める最高級の時計ブランドです。
フランクミュラー
重力の影響で生じる時刻の誤差を補正する機構、トゥールビヨンを進化させ続けてきたのがフランクミュラーです。1958年生まれのスイス人であるフランクミュラーは、独立時計師としてアンティーク時計の修復や愛好家のオーダーによる一点制作などを手がけていました。1980年からは、トゥールビヨンやミニッツリピーター、永久カレンダーなどを組み込んだ腕時計を制作して世界初の記録を次々と樹立していきました。機械式時計が本格的に復活する1990年代の初めに、自身のブランドを設立して瞬く間に脚光を浴びるようになりました。その後も複雑時計の開発における特許取得は途切れることなく、「複雑時計の巨匠」という名声を残しています。
オーデマピゲ
オーデマピゲは、1892年に世界初のミニッツリピーター腕時計を発表したブランドです。1875年の創業以降、140年にわたって家族経営を続けてきた名門ブランドです。オーデマピゲは薄型化・小型化を追求してきた時計メーカーであり、厚さわずか1.32mmの懐中時計や、厚さ1.64mmの極薄手巻き式ムーブメントを開発、1950年代には複雑機構の小型化に成功しています。さらに、1967年には「Cal.2120」という世界で最も薄いセンターローターの自動巻ムーブメントを開発しています。
まとめ
複雑機構の難解な構造は、すべての時計ブランドが製造できるわけではありません。高いブランド力と技術力があるからこそ、実現することができるのです。世界三大複雑機構の高級時計は、ともに年齢を重ねていく相棒としてふさわしいアイテムなのではないでしょうか。
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