歴史を継承しながら進化を遂げた現代の傑作、「PATEK PHILIPPE Ref.5270G-001」
伝統ある永久カレンダー搭載クロノグラフというジャンルにおいて、パテック フィリップは常にその頂点に君臨してきました。なかでもRef.5270は、これまでの歴史的モデルとは一線を画す存在として知られます。
パテック フィリップ初の完全自社開発クロノグラフムーブメント「CH 29-535 PS Q」を搭載し、ブランドの技術的独立と進化を明確に示すこのモデル。
2011年に登場した「Ref.5270G-001」は、クラシックな意匠と最新のムーブメントが融合した5270シリーズの初期モデル。外周にレイルウェイを備える端正なデザインは、ヴィンテージモデルへのオマージュを感じさせつつも、現代的な洗練さをまとっています。
高度な時計製造技術と審美眼が凝縮されたこの「パテックフィリップ グランドコンプリケーション パーペチュアルカレンダークロノグラフ Ref.5270G-001」のディテールを、美しく捉えた写真とともに、外観・機構・歴史と継承を紐解いていきます。
目次
クラシックな佇まいに宿る圧倒的な存在感。これまでのコンプリケーションモデルの意匠を受け継ぎながらも、Ref.5270G-001は「永久カレンダークロノグラフの理想形」と評することができる、まさにパテックフィリップらしい一本です。
Ref.5270G-001は、2011年に発表された「5270シリーズの初代モデル」。
この時計をひと言で表すならば、まさに「実用性と芸術性が完璧に調和したグランド・コンプリケーション」。見る者を魅了する外観美の陰に、パテック フィリップが培ってきた高度な技術と伝統が深く息づいています。
その中でも完全自社開発の手巻き式永久カレンダー搭載クロノグラフムーブメント「CH 29-535 PS Q」については深く語るべき部分であるといえます。
前機種Ref.5970ではレマニアベースのキャリバー(スイス製高級ムーブメント レマニアのクロノグラフ)を用いてきたパテックフィリップが、「自分たちの手で最高のクロノグラフをつくる」と宣言し実現した、記念碑的一面もあるモデルです。
まずは、文字盤の特徴と各機構、ムーブメントについて詳しく解説していきます。
Ref.5270G-001の文字盤は、非常に繊細な粒子感とシルクのような滑らかさを持つ「オパーリンシルバーダイアル」が特徴です。粒子状の仕上げがされた文字盤表面は光沢を抑えたマット調でありながら、光の角度に応じて上品な艶が現れます。
一見くすんだシルバーにブラック系のインデックスだと暗めの印象が強いのではないかと感じますが、実は情報の多いグランドコンプリケーションモデルにおける最適解の一つだといえます。
例えば、シルバーではなくホワイト文字盤の場合とするとインデックスと文字盤のコントラストが若干高くなり、視覚的な煩さが出てしまいます。
その僅かな煩さを低減し、文字盤に載る多くの情報を落ち着いて眺められるのは、明度が白よりも低い粒子マットのオパーリンシルバーだからこそなのではないかと考えます。
明るい光を受けても白飛びせず、やわらかくモダンな印象に見える点もオパーリンシルバーならではの上品さなのではないでしょうか。
インダイアルとの明暗差もあることで視認性と立体感が生まれ、時計としての表情がはっきりと感じられます。
また、ドーム型サファイアクリスタルを通して見たとき、文字盤全体の洗練さが際立つ点も時計愛好家にとって堪らないポイントといえるでしょう。
もっと近くに寄って見てみましょう。
まず目を引くのは、立体感を演出するアプライドのアワーマーカーと針の造形美。酸化処理を施したブラックゴールドのリーフ型針とインデックスが、ダイヤルに絶妙なメリハリを与えつつ、高い視認性も確保しています。
そして、Ref.5270G-001の外周には、極めて繊細なミニッツトラック(1/5秒刻み)が印字されています。これは、クロノグラフの機能性を支える重要な要素であり、30分積算計と連携して読み取る精密な時間計測に貢献しています。
このミニッツトラックは、外周のギリギリまで文字が印刷されており、広めのダイアルスペースを活かしたダイナミックなレイアウトになっています。
また2011年発売から約3年間生産された初代のダイアルはクロノグラフであるにも関わらずタキメーターがない点も着目すべき点で、均整のとれた顔立ちがRef.5270G-001ならではの特徴ともいえます。(先代モデルRef.5970と2代目以降ではタキメーターが配されています)
Ref.5270G-001のムーンフェイズ表示は、周りの日付までも合わせて6時位置に美しく組み込まれています。このレイアウトは、Ref.1518やRef.3970といった往年の名作にも見られる、パテック フィリップが長年継承してきた伝統的な意匠です。
ムーンフェイズのインダイヤルが外周レールウェイの内側に配されており、すっきりと収まりが良く見えます。(※後継機ではタキメーター表示が追加されたことにより、ミニッツトラックが押し下げられたデザインになっています)
また、インダイヤルには同心円状の繊細な彫りが施されており、光のあたる向きによって時計の表情に一層の深みと豊かさが生まれます。
本機に搭載されるムーンフェイズ機構は、実際の月の朔望周期に基づき、122年に誤差が僅か1日という卓越した精度を誇ります。
この精度水準のムーンフェイズは、現在においてもごく一部のハイエンドモデルにしか見られないもの。パテックフィリップの精緻な設計力と、複雑機構に注ぐ伝統の結晶と言えるでしょう。
以下にRef.5270G-001の文字盤に配置された表示機能をまとめした。
クロノグラフ秒針はスタート・ストップ・リセットの操作に連動して動作します。分目盛り(ミニッツトラック)と連携し、1/5秒単位の読み取りが可能です。
ディスク式のムーンフェイズは、深いブルー地に手作業で描かれた月と星が最上級の美しさを放ちます。デイナイト表示とうるう年表示の小窓は、パテックの現代的永久カレンダーレイアウトの象徴となっています。
パテック フィリップ Ref.5270G-001には、文字盤の4時位置と7時位置に小窓(インジケーター)が配置されています。これらは見た目こそ控えめですが、永久カレンダー機構を日常的に使ううえで非常に重要な役割を果たしています。それぞれの機能を詳しく解説します。
この小さな丸窓は、現在の西暦年がうるう年かどうかを4年周期で示すインジケーターです。
うるう年は4年に1度、2月29日が追加される年です。永久カレンダーにとって、この調整は極めて重要。通常のカレンダーでは手動修正が必要ですが、パーペチュアルカレンダーは自動で閏年を判断して正しい日付表示を維持します。
Ref.5270G-001のインジケーターでは以下のように表示されます。
表示される数字 | 数字の意味 |
---|---|
1〜3 | 平年(1〜3年目) |
4 | うるう年(4年目) |
この表示によって、今が周期のどこにあるかがひと目でわかるため、カレンダー表示の裏付けとして重要な情報になります。
7時に位置する小窓は、現在が午前もしくは午後か(AM/PM)を示すインジケーターです。
この表示はカレンダー操作時に非常に便利で、針の示す「12時」が正午か深夜かを判別できるようになっています。
機械式時計では、カレンダーが切り替わるタイミング(通常は深夜前後)に日付調整を行うと、内部機構にダメージを与えるリスクがあるため昼夜表示があることで、「今はカレンダー切り替え時か?」「手動調整しても大丈夫なタイミングか?」といった判断が可能になります。
誤操作を防ぐためのセーフティ機能としても役立つのです。
この時計の鼓動を司るのが、パテック フィリップ自社開発による手巻きムーブメント「CH 29-535 PS Q」。パテック フィリップが初めて設計・製造した完全自社開発の手巻きクロノグラフ+永久カレンダームーブメントです。
伝統的なコラムホイール式クロノグラフに、瞬転式の永久カレンダー機構を統合した、極めて高度なグランド・コンプリケーション・キャリバーです。
設計から製造、仕上げに至るまで一貫してマニュファクチュール体制で手がけられており、パテックフィリップにおける技術的結晶と呼ぶにふさわしい存在です。
2011年のRef.5270G-001でデビューし、これまでのレマニアCal.2310ベース(CH 27-70 Q)に代わる新世代の基幹キャリバーとなりました。
真に自社で完結するグランド・コンプリケーションとして進化を遂げたこのモデルは、複雑機構の頂点にふさわしい一本。それこそが、この時計を選ぶ理由となることでしょう。
画像引用:パテックフィリップ公式HP|CH 29-535 PS Q
ムーブメント | キャリバーCH 29-535 PS Q |
---|---|
種類 | 手巻き式ムーブメント |
パワーリザーブ | 最短55時間〜最大65時間※クロノグラフを使用しない状態 |
テンプ振動数 | 毎時28,800振動 |
石数 | 33石 |
部品数 | 456個 |
構造的特徴と技術的な進化ポイントとしては、「6つの特許取得済み機構」が搭載されていること。Cal.CH 29-535は、開発段階で以下の6つのクロノグラフ関連特許を取得しています。
これらにより、従来型クロノグラフの弱点を理論的に克服。
また、当機に搭載される「Cal.CH 29-535 PS Q」は、永久カレンダー機構が完全に統合設計されているのも大きな強みです。(末尾に付く「Q」はQuantième Perpétuel(カンティエーム・パーペチュエル)の略で、フランス語で「永久カレンダー(パーペチュアルカレンダー)」を意味します。)
旧キャリバーではモジュール構成でしたが、このムーブメントではベース地板に直接統合されているため、厚みの抑制(12.4mmのケース厚)、駆動系のエネルギーロス削減、メンテナンス性の向上といった恩恵を受けています。
パテック フィリップのグランド・コンプリケーションの象徴とも言える「パーペチュアルカレンダー×手巻きクロノグラフ」は、Ref.5270でもしっかりと継承されています。この伝統は、1941年のRef.1518を起点に、Ref.2499、Ref.3970、Ref.5970と続いてきた偉大なる系譜であり、Ref.5270はその最新章として位置づけられます。
ここではRef.5270の前世代モデル「Ref.5970G」「Ref.3970J」と比較し、異なるポイントを解説していきます。
※G(ホワイトゴールド)やJ(イエローゴールド)は素材のバリエーションを意味
Patek phillipe Ref. 5970G perpetual calendar chronograph pic.twitter.com/5HsszvN1Np
— TheWatchBusiness (@TheWatchB) August 14, 2024
引用:X|TheWatchBusiness「Ref.5970Gの写真」
最大の変化はムーブメントの変化です。Ref.5970まではレマニア(Cal.2310)ベースのCal.CH 27-70 Qを採用していましたが、Ref.5270G-001では初の完全自社製クロノグラフムーブメント Cal.CH 29-535 PS Qを搭載。これにより、以下のような進化がありました。
また、Ref.5970のケース径は40mmG-001では41mmにサイズアップ。現代的な着用感に配慮した変更となります。
Patek Philippe Chronograph, Ref. 3970 in 18K Yellow Gold pic.twitter.com/q2q1PQX9KZ
— TheWatchBusiness (@TheWatchB) August 30, 2024
引用:X|TheWatchBusiness「Ref.3970の写真」
パテック フィリップ Ref.3970は1986年に誕生した傑作永久カレンダー・クロノグラフであり、名機CH 27-70 Q(レマニアベース)を搭載しています。
これに対して、当機は2011年に登場したRef.5270-001は、完全自社製キャリバーCH 29-535 PS Qを搭載した新世代の永久クロノグラフです。
コンセプトを継承しつつも、設計・構造・外観デザインにわたって多くの刷新が図られています。
Ref.3970が確立した「伝統的な機械式クロノグラフに永久カレンダーを統合したクラシカルなスタイル」は、Ref.5270にもそのまま継承されています。
新設計のムーブメントを採用することによりデザインの違いも見受けられます。
Ref.5270G-001では左右のインダイヤルの位置が中心よりやや下寄りになりバランスの見直しが図られ、「PATEK PHILIPPE」のブランドネームがやや大きくなっています。
閏年と昼夜表示が小窓に統一されたのもRef.3970以降の進化です(3970初期型は針式表示)。
外装ディテールも洗練され、ラグの形状や、プッシュボタンの繊細な仕上げなど、現代的なディテールにアップデート。裏蓋はスケルトンバックが標準化されました。(Ref.3970ではソリッドバックが基本で、シースルーは後年)
「Ref.5270G-001」は、単なるラグジュアリーウォッチではなく、パテック フィリップが長年守り続けてきた伝統的クロノグラフの系譜と、それをさらに進化させるという革新の精神が宿っています。
Ref.3970から続く永久カレンダー×手巻きクロノグラフの血統を継承しながらも、完全自社製ムーブメント「CH 29-535 PS Q」を搭載することで、技術的にも審美的にも次のステージへと昇華されています。
視認性と調和を重んじたダイヤルレイアウト、オパーリンシルバーダイヤルの柔らかな光、そして品格を湛えたホワイトゴールドケース。そのすべてが、グランド・コンプリケーションの名にふさわしい完成度を誇ります。
複雑時計のひとつの理想形として、現代のクロノグラフにおける精神的マイルストーンとも言える存在。それは決して派手さではなく、静かなる高度性と永続する価値を愛する人のための時計といえます。
Ref.5270G-001の「“マニュファクチュール・コンプリケーションの到達点”」という評価は今後も永久に揺らぐことはないでしょう。
パテックフィリップ グランド コンプリケーション パーペチュアルカレンダー 5270G-001
参考価格17,300,000円(税込)
モデル情報
こちらは、生産終了後に一層の人気を博した名機「Ref.5970」の後継モデルとして、2011年に発表された初代にあたるモデルです。本機最大の特徴は、パテック フィリップが独自に開発・製造した完全自社製ムーブメントである手巻きキャリバー「CH 29-535 PS Q」を搭載している点にあります。各表示の基本的なレイアウトは従来の伝統を踏襲しつつ、新たに2つの小窓を追加。左側が昼夜表示、右側が閏年サイクルを示し、視認性と情報性が一層向上しています。ケースには18Kホワイトゴールドを採用し、シルバーダイヤルとの組み合わせが、統一感のある端正な美しさと洗練された印象をもたらします。さらに、シースルーバックからは、精緻な仕上げが施されたムーブメントの美しい動きを存分に鑑賞することができます。