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WEBマガジン, ブランド時計豆知識

平成を時計業界から振り返ってみた~日本経済・トレンド・業界の動向~

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2019年5月1日、「平成」が終わりを告げるとともに、「令和」の時代がやってきました。
昭和天皇の崩御とともに改元された平成とは異なり、今回の改元は日本全国がお祭りムード。令和の幕開けを楽しんだ方もいらっしゃったでしょう。
平成は30年間以上も続きました。日本国内では経済面・文化面などで様々な事柄がありましたが、それは時計業界にも言えることです。できては消えていったブーム、市場、ブランドの生き残り戦略・・・昭和を激動の時代と呼ぶことがありますが、こと時計業界においては平成は「超激動」です。
この記事では、そんな平成の時計業界を振り返って総ざらいしてみました。

ロレックス デイトナ 116500LN

 

平成元年~平成10年の時計業界

平成元年~平成10年の時計業界のできごと年表と、時計業界の動向・市場・トレンドなどを掲載いたします。

 

できごと年表

 

年号 できごと
平成元年(1989年) パテックフィリップが当時最も複雑な懐中時計となるキャリバー89を発表
ボヴェ社がフルリエに復活
ハリーウィンストンの時計事業スタート
ロレックス Cal.3135の登場、デイトジャスト Ref.16233およびサブマリーナRef.16610に搭載
ロレックス 青サブのロングセラーRef.16613の登場
平成2年(1990年) ドイツ国家が統一され、ランゲ&ゾーネが復活
同様に、グラスヒュッテオリジナルが民営化
ユンハンスが世界初の電波腕時計MEGA1を発表
ロレックス Cal.3000の登場、エクスプローラーI Ref.14270およびサブマリーナ ノンデイト Ref.14060が発表
平成3年(1991年) ベル&ロス創業
第一回SIHH(ジュネーブサロン)開催
エルメス ケープゴッドを発表
セイコーが自動巻きの回転ローターで発電するクォーツウォッチ・キネティックを発表
ロレックス エクスプローラーII Ref.16570を発表
ロレックス シードゥエラー Ref.16600を発表
平成4年(1992年) SMHグループがブランパンを買収
ローランド・シュヴェルトナー氏によってグラスヒュッテでノモスが再興
フランクミュラー・ウォッチランドが創業
タイメックスが世界初の文字盤全面発光のインディグロナイトライトを発表
ロレックスがヨットマスターを発表
平成5年(1993年) カルティエを中心としたヴァンドームグループ(現リシュモン)設立
オーデマピゲ ロイヤルオーク オフショアを発表
パネライが民生用にルミノールなどを発表
パテックフィリップ ゴンドーロを発表
根本特殊化学株式会社より「N夜光 ルミノバ」発表。これによりトリチウム夜光は姿を消す
平成6年(1994年) ランゲ&ゾーネからランゲ1など、復活処女作となる4ラインを発表
パテックフィリップ カラトラバ リファレンス5000番台に突入
ゼニス 新ムーブメント「エリート」を発表
フレデリックコンスタントが世界初のオープンダイアル「ハートビート」を発表
IWCがパイロットウォッチ クロノグラフを発表
平成7年(1995年) ロジェ・デュブイが創業
ブレゲが民生用のパイロットウォッチ 「タイプXX アエロナバル」を発表
IWCがポルトギーゼ クロノグラフを発表
オーデマピゲがミレネリーを発表
カルティエがパシャCを発表
フェラーリとジラールペルゴがコラボレーション。フェラーリにとってはこれが時計業界との初めての連携だった
平成8年(1996年) ヴァシュロンコンスタンタン オーヴァーシーズを発表
パテックフィリップ 年次カレンダーの特許を取得
パルミジャーニ フルーリエが創業
F.P.ジュルヌが創業
フランクミュラー マスターバンカーを発表
ショパールが初の自社製ムーブメントL.U.C1.96を発表
フィリップ・デュフォーがデュアル・レギュレーターを発表
平成9年(1997年) ボヴェが復活
パテックフィリップがアクアノートを発表
カルティエ タンクフランセーズを発表
モンブランが時計事業に参画
パネライがヴァンドームグループに参加
平成10年(1998年) 機械式グランドセイコーが復活。9Sシリーズが誕生。
フォルティスが世界初のアラーム付きクロノグラフを発表・特許取得
シャネルがベル&ロスと資本提携
ハリーウィンストンがオーシャン発表
ブルガリがアルミニウムコレクションを発表

 

 

平成初期の時計業界の動向

時計産業 平成

出典:https://qz.com/316064/six-things-to-know-about-the-swiss-watch-industry-before-apple-invades/

↑1990年代~のスイス時計輸出に関するグラフ。クォーツ製造も多いが、機械式時計が右肩上がりの成長を遂げていることがわかる

 

冒頭でも述べたように、平成元年にあたる昭和64年1月、日本は決して明るいとは言えない世相でした。
昭和天皇が崩御し、世間は自粛ムード一色に。
その翌年のバブル崩壊や続く就職氷河期など、平成の初動の日本は「冷え込んでいた」と言っていいかもしれません。

では、一方の時計業界はどうだったのか。
1980年代末頃~1990年代あたまにかけて、長らく続いた冷戦が収束し、再び世界が一つに収束していきました。
それに伴いヨーロッパは欧州連合(EU)を中心に経済の再成長に挑んでいくようになります。
時計産業の聖地であるスイスはEUに加盟しておらず、また、戦後処理への批判や経済停滞が重なり、あまりパッとしない10年間を迎えることとなります。しかしながらスイスの強みは国際競争力のある産業が居並んでいること。そんなスイス産業のリーシャルウェポンである時計は、日本の平成初期に第二の黄金時代を迎えることとなります。

パテックフィリップ グランドコンプリケーション パーペチュアルカレンダー

平成前夜にあたる1970年代~1980年代、スイスを中心とした機械式時計産業は真冬状態でした。
1969年、セイコーがクォーツを駆動力に持った「アストロン」の市販化―クォーツショックーにより、大量生産された、安価な腕時計に世間のニーズは集中することとなりました。
ある程度の富裕層がターゲットであったスイス機械式時計メーカーは苦戦を強いられ、ブランパンが休眠に追いやられたりIWCが倒産に瀕したりと、有名メーカーであっても例外はなかったようです。
この時代、機械式時計を順調に製造していたのは、パテックフィリップやロレックス、ブレゲといった本当に一部のメーカーに留まりました。

しかしながら日本の平成初期にあたる1990年前後、にわかに機械式時計が息を吹き返します
これは何も時計産業だけに限らないことなのですが、世界的に「大量消費社会」が批判を浴び始め、かわって伝統工芸が再び見直されるようになったことが無関係ではないでしょう。
また、大きな戦争が終結し世界経済が安定しつつあり、多くの産業を活気づかせたこと。先進国での国民の生活水準が安定しはじめ、高級嗜好品へのニーズが高まったことなどもこの復興に一役買ってくれることとなりました。

ランゲ&ゾーネ 1815クロノグラフ

休眠していたブランド―ブランパンやランゲ&ゾーネ,グラスヒュッテオリジナルなど―が息を吹き返し、クォーツ生産がメインとなりつつあったブランドも機械式時計を再び製造。
ちなみにパテックフィリップは平成元年にあたる1989年、当時は最も複雑な懐中時計となるキャリバー89を発表しているのですが、これは同社が「機械式時計の素晴らしさを再び喚起する」狙いもあった、と言います。
この流れが功を奏し、再び機械式時計は黄金時代を迎えることとなります。ちなみに伝統工芸品の見直しは多くの産業では結局定着しなかったのですが、機械式時計だけは別であったことが、今なお大きなムーブメントを築いていることを見ればおわかりいただけると思います。
なお、クォーツショックの立役者であったセイコーですら、再び機械式時計の製造を始めたというエピソードと合わせて考えると、それだけ機械式時計は優れた機構であり、人々を惹きつけ続ける不思議な魅力があることがわかります。

このようにして、スイスを中心とした時計業界は復活を果たし、大きく躍進していくこととなります。

 

時計業界での新たなるウェーブ

オーデマピゲ ロイヤルオーク

↑初出は1972年だが、1990年代に一気に人気が爆発したオーデマピゲ ロイヤルオーク

 

平成初期、機械式時計が復活を果たすと同時に、従来では考えられなかった新しいビッグウェーブが二つ巻き起こることとなります。
その一つは、スイス老舗時計メーカーのみならず、スイスの国内外発祥の新興ブランドが続々と新設されたこと。

例えばフランクミュラーやベル&ロス。また、これまで軍隊御用達であったパネライが、民間向けの時計市場に参入したのもこの頃です。
いずれも今なお人気のブランドが、次々と誕生することとなる時代を迎えました。

また、機械式時計が世界全体で評価され始めたことを受けて、ファッションブランドやジュエラーの時計事業参入もあわせて始まります。
もともとシャネルやエルメスなどは時計のラインナップもありましたが、デザインウォッチがメインでした。しかしながら1990年代以降、本格的な時計製造を手掛けるようになったのです。
また、ジュエラーはカルティエが時計製造を行っていましたが、ハリーウィンストンやブルガリなどもこの分野に乗り出すこととなります。
ジュエリー製造と時計製造は親和性がとても高いので、これが上手くいかないはずはありません。

このように、機械式時計が返り咲くにつれて、多くの他業種メーカーが時計をラインナップに加えていくこととなりました。

ハリーウィンストン アヴェニュー

もう一つのビッグウェーブ。それは、スポーツウォッチというカテゴリが一大トレンドとなったことです。
もともと「ラグジュアリースポーツウォッチ」という概念が出てきたのは、オーデマピゲがロイヤルオークを発表した1970年代のことでした。
しかしながら当初は今ほどのブームにはならず、「知る人ぞ知る」といった印象。当時はロレックスやオメガなど一部ブランドを除くと34mm~36mmといった、小径のドレッシーなクラシックウォッチが主流であったためでしょう。

しかしながら日本で言う平成に入ると、スポーツウォッチにトレンドの焦点が集中します。
世界三大時計ブランドに名を連ねるヴァシュロンコンスタンタンが二社にならってオーヴァーシーズを発表したり、オーデマピゲがロイヤルオークをさらにスポーティーにしたオフショアを発売したりといったトレンドの風が時計業界に吹き込むこととなりました。

ヴァシュロンコンスタンタン オーヴァーシーズ

↑ヴァシュロンコンスタンタンのスポーツウォッチ オーヴァーシーズ

同時期、多くのブランドで有名人を広告塔に起用しはじめ、マーケティング手法が変わったこともこのブームを後押しします。
これまで「高級時計は過去の遺物」「古臭い」といったイメージを、世界中の消費者から払しょくしたことは言うまでもありません。
ちなみに「デカくて厚いケース―通称デカ厚―」の黎明もこの時代となります。

現在、1980年代~1990年代に製造された時計を「ポストヴィンテージ」と呼び、人気が再燃しています。
いかにこの平成初動期に作られた時計に傑作が多かったかがおわかりいただけるでしょう。

 

日本での高級時計ブームの到来

東京 銀座

 

さて、ここで平成初期の日本に話を戻します。
スイス時計業界は大きな盛り上がりを見せる中で、前述の通り日本ではバブル崩壊とともに経済不安が世相に漂っていました。いわゆる平成不況というやつです。ちなみに先進国の中でも日本の不況は突出しており、1990年代は「失われた10年」などとも言われます。

とは言え日本経済が全く発展していなかったとか、高級品は売れなかったとか、そんなことはありません。
実際、景況感は悪かったとは言え、国民の生活水準はむしろ向上しており、高級品市場は拡大しています。

平成初期はクォーツ時計が主流でしたが、1990年代半ばになりさらに経済パフォーマンスが向上していくと、高級時計ブームが日本国内でも始まるようになりました
その火付け役が、ドラマ『ラブジェネレーション』です。
当時はトレンディドラマが大流行していましたが、木村拓哉さんがこの作品の中でロレックスのエクスプローラーI Ref.14270を着けていたことが、ドラマを楽しんでいた国民の目に留まりました。

エクスプローラーI 14270

↑ドラマに出て大ヒットを遂げたエクスプローラーI 14270

 

バブルの頃、多くの日本人がこぞってロレックスの金無垢モデル(デイトジャストなど)を買っていたと記憶していますが、そういった「金満家」「成金趣味」といったイメージが持たれていたロレックス。それを、今をときめくアイドルが、超かっこいいステンレスモデルを洒脱に着けこなしている!
これが人気が出ないはずがありません。

このドラマがきっかけでロレックスブームが国内を席捲し、次いで高級時計ブームへと繋がっていきました。
なお、これまで雑貨や車がメインであった並行輸入市場が時計でも確立され、東京や大阪を中心に、日本国内の街中で時計専門店が立ち始めるようになります。

 

平成11年~平成20年

平成元年~平成10年の時計業界のできごと年表と、時計業界の動向・市場・トレンドなどを掲載いたします。

 

できごと年表

 

年号 できごと
平成11年(1999年) グランドセイコーがスプリングドライブを開発 オメガがコーアクシャル脱進機を搭載したデ・ヴィルを発表 ヴァンクリーフ&アーペルがリシュモングループに参加 タグホイヤーがLVMHに参加 ブライトリングが100%クロノメーター宣言
平成12年(2000年) ダニエル・ロート,ジェラルド・ジェンタがブルガリ傘下に
リシュモングループがLMH(ランゲ&ゾーネやIWC、ジャガールクルト)を買収
シャネルがJ12を発表
IWCがポルトギーゼ オートマチックを発表
フランクミュラーがロングアイランドを発表
ロレックスが初の自社製クロノグラフCal.4130を開発。Ref.116520が発売
平成13年(2001年) 時計界のアカデミー賞と呼ばれるGPHG(ジュネーブウォッチメイキンググランプリ)が開催
リシャールミルが創業
ラング&ハイネが創業
ショパールやパルミジャーニ・フルーリエなどとともに時計の品質規格カリテフルリエが創設
パテックフィリップ・ミュージアムが開館
ロレックスがツインブリッジ式テンプ支えやマイクロステラナットに変更したCal.3130を発表
ロレックス エアキング Ref.14000Mが登場
平成14年(2002年) ETA問題勃発(ETAがスウォッチグループ以外のエボーシュ供給停止を発表)
ルイヴィトンが時計事業に参画
ジョージ・カーン氏がIWCのCEOに就任
ピエール・クンツが創業
フランクミュラーがトゥールビヨンがせりあがるレボリューション1を発表
平成15年(2003年) ブライトリングとベントレーのコラボレーションモデルが販売開始
ゼニスがエルプリメロの「オープン」を発表
ロレックス サブマリーナ誕生50周年を記念してグリーンサブことRef.16610LVを発表
ロレックス サファイアクリスタル風防の6時位置にクラウンマークの透かしが入る
平成16年(2004年) ジャン・クロード・ビバー氏がウブロのCEOに就任
パテックフィリップ カラトラバから現行クンロクにあたるRef.5196を発表
ヴァシュロンコンスタンタンがパトリモニーを発表
ブレゲがマリーンIIを発表
カルティエがタンクソロを発表
タグホイヤーがカレラ タキメータークロノグラフを発表。広告塔にブラッド・ピット氏を起用し大ヒットを遂げる
ロレックスがターノグラフを発表。スポーツロレックスの原点となる
平成17年(2005年) IWCのインジュニアが復活
ウブロのビッグバンが大ヒット
ETA問題を受け、ノモスが自社製ムーブメントの開発に成功
セイコーがガランテを発表
ブレゲが「タイプXXI トランスアトランティック」を発表
ロレックスが常磁性のパラクロム・ヒゲゼンマイをブルーに酸化処理したブルー・パラクロム・ヒゲゼンマイを実用化
ロレックス セラクロムベゼルをスポーツモデルに搭載していくようになる
ロレックス エバーローズゴールドの素材開発
平成18年(2006年) ヴェンペを中心にドイツ・クロノメーター検定制度が復活
パネライが初の自社製ムーブメント搭載モデルを発表
IWCがマークシリーズを一新、マーク18が誕生
パテックフィリップ ノーチラス 5711/1Aが登場
ロレックス、ほぼ全てのモデルにルーレット刻印を採用
ロレックス デイトジャストのオールステンレスモデルRef.116200が登場
平成19年(2007年) ムーブメント会社「ヌーベル・レマニア」がブレゲに吸収合併
モンブランが老舗ムーブメント会社「ミネルバ」とパートナー契約
ノモスが自社製トゥールビヨンを発表
ハリーウィンストンが時計工場をスイス ジュネーブに設立
ロレックスがミルガウスを復活
ロレックス GMTマスターII Ref.116710LNを発表
ロレックス ヨットマスターIIを発表
平成20年(2008年) ロジェ・デュブイがリシュモングループに参加
モリッツ・グロスマンが創業
シャネルがオーデマピゲと提携しオーデマピゲ社製ムーブメントCal.3125搭載J12を発表
モンブランが自社ムーブメントを開発
パネライが72時間パワーリザーブを備える薄型自動巻きP.9000を発表
ロレックスがシードゥエラーの上位機種ディープシーを発表
ロレックスがデイデイトの上位機種デイデイトIIを発表

 

時計業界の動向

オメガ シーマスター 300

 

平成中期、21世紀の始まりとともに、時計業界は大きな盛りを迎えていました。
でも実は、決して経済的には有利な立場ではありませんでした。と言うのも、「ナンバーワンリーダー」であったはずのアメリカの経済が凄まじい勢いで失速していたためです。アメリカ同時多発テロ、それに続くドッドコムバブルの終焉(インターネットバブル。テロの影響でIT株価が急速に下落し、多くのIT関連ベンチャーの倒産が相次いだ)などにより、アメリカ、そしてアメリカと無関係ではない多くの国々での経済は減速した、と言われていました。
しかしながら中国など新興国の台頭が目覚ましく、それにつれてスイス時計へのニーズが世界的に高まり、「時計バブル」と言っていいような高級時計ブームが巻き起こりました。
ロレックス,パテックフィリップ,オメガにブライトリングにタグホイヤー・・・人気ブランドが続々と「平成生まれ」の傑作シリーズを輩出し、令和になった今なおフラグシップの担い手として高い需要を誇るほどです。

一方で、時計業界ではM&Aが激化し、業界の大幅な再編が行われた時代でもあります。

リシュモングループ

出典:https://www.richemont.com/

もともとファッション業界において、1980年代頃から有力ブランドによる企業買収や合併を繰り返すM&Aが戦略の主流となり、巨大なコングロマリットが形成されるようになりました。
その先駆けとなったのがLVMHグループです。ファッション業界大手ルイヴィトンと、シャンパン大手モエヘネシーによる合併企業として誕生しました。
安定した巨大資本の傘下に入ることで安定した基盤を獲得できること。また、異なるブランド間が提携・協業することで、市場に新たな価値・サービスを提供できる(シナジー効果)ことへの期待から、業界にとっても非常に意義のあるウェーブとなります。

時計業界でこのM&Aにいち早く踏み出したのは、スウォッチグループでした。
少し話が遡りますが、スウォッチは1983年、ニコラス・G・ハイエック氏が、「機械式時計が、クォーツから主権を奪還する」というコンセプトのもと誕生した時計メーカーです。
その後ブランパンやブレゲを買収し、次いでオメガおよびムーブメント製造メーカーETAが傘下に加わると、一気に時計業界の再編が加速。スウォッチグループが時計バブルの波にのっていたことも手伝って、リシュモングループやLVMHといった、現在の時計業界の主要コングロマリットとなるグループ企業が時計ブランドの買収に乗り出しました。

ロレックス

↑ロレックスやパテックフィリップのように独立を守り抜いているブランドも。

 

この業界版図は、2002年に様相を一変させます。
スウォッチグループが、自社傘下のETAのパーツやエボーシュ(機械式時計の未完成ムーブメント)を、グループ以外のメーカーへ提供しない、と発表したのです。
正確には「段階的に停止していく」といったものでしたが、スウォッチグループ以外の時計メーカーが顔色を変えたことは言うまでもありません。
ムーブメントは時計の言わば心臓部。ETAの高品質なムーブメントの恩恵を受けて時計製造をしていたメーカーは少なくありません。今でこそマニュファクチュールだ自社製造だと言われますが、当時は一部のメーカーを除いて大多数がETAのエボーシュに頼っていたためです。
スウォッチとしては2006年から順次停止していきたかったようですが、多くのメーカーから猛抗議に合い、2010年(のちに2020年)に供給停止は延長されました。しかしながら、時計業界の「メーカーのありかた」「時計製造のありかた」に投じられた一石は、後の時計業界に大きな波紋を残すこととなります。

GMTマスターIIとデイトナ

↑2000年代に誕生したロレックス GMTマスターII 116710LNデイトナ 116520

 

とは言え再編が活発ということは、それだけ市場が活性化しているということ。
実際、前述の通り時計バブルとも言える好景気が時計業界を覆い、多くの人気ブランドから人気モデルが生まれました。また、1990年代に発表されたモデルのリニューアルもよく行われ、特にロレックスも現行に繋がる新ラインを続々輩出しました。

しかしながらこの景況感は、2008年のリーマンショックで終焉します。
2008年以降の時計業界の動向は、後述いたします。

 

時計業界のトレンド

ムーブメント

前述したETA問題によって、業界内である変革が生まれます。
それは、「自社でムーブメント製造を担う」ブランドが増えた、ということ。マニュファクチュールとも呼ばれます。

先ほど少し触れたように、時計メーカーが自社製ムーブメント製造に力を入れ始めたのはこの平成中期―2000年代―です。
スイスを含むヨーロッパは分業制が主流。そのためムーブメント製造はムーブメント会社に任せ、自社では組み立てのみ行う、というところは少なくありませんでした。また、エボーシュという未完成のムーブメントを仕入れ、自社で再設計したり機構を追加したり、といったところも多く、そんなムーブメントやエボーシュの供給をETAが大きいところを担っていました。

そして2002年、にわかにスウォッチグループから発表されたETA製ムーブメントの供給停止。多くのブランド、そしてスイス全土にとっても寝耳に水の出来事でした。上質なムーブメントがなければ、当然ながら良い時計はできません。これは、スイスの時計産業全体を揺るがすような大きな衝撃となったのです。

エタ ムーブメント

出典:https://www.eta.ch

一方でこの「ETA問題」は、マニュファクチュールという新たな変革の波をもたらすこととなりました。
これまでエボーシュ頼りだったムーブメント製造を、自社工房で設計・製作までを一貫して担うこととなったのです。

このマニュファクチュールはコストもかかるし、高い設計力や技術力が必要となります。また、そのための施設も新たに必要となります。しかしながら自社独自のデザインや機構を実現できるため、ブランドカラーは出しやすくなります。
かくしてマニュファクチュールを採用するメーカーがちらほら出てくるようになると、今度は「マニュファクチュールを一つの付加価値としてとらえる」という流れが出てくるようになったのです。
マニュファクチュールが可能と言うことは、それだけ高い時計製造技術を持っているということ。実際それまでマニュファクチュールを行っていたのは、ロレックスやパテックフィリップ、ジャガールクルトといった、一部の名門メーカーに限られていました。時計業界のムーブメントには、「マニュファクチュール」と、エボーシュに頼る「エタブリスール(Establisseur)」で明確に分けられるようになり、前者が大きな価値を持つこととなりました。

すると、今度はこの「技術力」をブランド間で競うようになります。

フランクミュラー ヴェガス

「これだけのムーブメントを作った」・・・自社技術を誇示するかのような複雑機構を搭載した腕時計が続々と発表されるようになります。
マニュファクチュール戦争、そしてコンプリケーション戦争が、平成中期の時計業界のトレンドであった、と言えるでしょう。

バブル期はえてして「わかりやすい豪華さ」が流行るもの。
時計バブルと呼ぶにふさわしいこの時代、豪奢で、超絶複雑で、至高の技術が駆使されたと一目でわかるような銘品が多数発表されました。
自社製トゥールビヨンやミニッツリピーター、永久カレンダーなど世界三大複雑機構に名前を連ねるような逸品も少なくありません。
それに伴い、複雑で精密なムーブメントを外部刺激(衝撃や磁気など)から守る仕組みの必要性が出てきました。そこでケースにセラミックやチタンといった、従来の貴金属以外の新素材や、独自素材を採用する流れが出てきます。

なお、トレンドとは言え、名門メーカーが製造するコンプリケーションですから、10年以上が経過した今なお高い評価が付けられる銘品が多いことは付け加えておきます。

ちなみにこのようなコンプリケーション合戦の中で、もともとマニュファクチュールと高い時計製造技術を確立していたロレックスは、実用的なムーブメントのアップデートに力を入れていました。ロレックスの質実剛健な一面を垣間見れるエピソードです。

 

ウブロ ビッグバン

もう一つの平成中期のトレンド。それは、1990年代に始まったスポーツウォッチブーム、特にデカ厚ブームが開花した、ということ。
1990年代には40mmのケースサイズがちらほら出始めましたが、それでも主流は36mm~38mm程度。クラシックスタイルだと、32~34mmサイズのものも少なくありませんでした。
しかしながら44mmケースがスタンダードの、パネライ ルミノールが大ウケ。次いでウブロのビッグバンが大ヒットを遂げたことから、ケースサイズは40mm以上(あるいは45mmを超える)で、さらに厚みを持つデザインがトレンドとなったのです。

なお、これは前述したETA問題と無関係ではありません。
自社製ムーブメントを作るうえで「小型化」は非常に難易度が高いです。緻密なパーツとは言えそれを何百も折り重ねる必要があり、どうしても大型になりがち。そのためボリュームのあるケースが重宝された、という背景もあるのでしょう。

ETA問題も確かに深刻ではありましたが、2000年代は前述の通り時計バブル!
様々なブランドから多彩な高級時計がラインナップされ、それが受け入れられやすい土壌が整っていました。
この時代の時計専門店の店頭を見たら、なんだか楽しそうだな。そんな思いにかられるものです。

 

日本の高級時計市場の広がり

スイス時計対日輸出額

↑2000年~2007年のスイス時計対日輸出額の変遷。下がっている時期もあるが、おおむね上昇している(データ出典:連邦税関事務局)

 

平成中期、日本でも、時計バブルが謳歌されていました

1990年代からのロレックスブームに加えて、パネライやフランクミュラー、ウブロといったロレックスに次ぐ新興時計ブランドの認知度が一気に上昇。
日本もまた経済成長を続けていた時代、ということもあり、東京 銀座を中心に、高級時計メーカーのブティックが続々登場するようになります。

スイス時計の対日輸出は大きな割合を占めるようになり、平成元年と比べると2倍以上の伸び率となりました。ちなみにリーマンショック前夜の2007年までは、日本がスイス時計輸出先としてトップスリーに入っています。

街中の時計専門店の数も格段と増えました。
高級時計は「一部の選ばれた富裕層の嗜好品」から、「誰でも頑張れば買える」に変遷。幅広い層が高級時計を楽しむようになった時代です。

 

平成21年~平成31年

平成21年~平成30年の時計業界のできごと年表と、時計業界の動向・市場・トレンドなどを掲載いたします。

 

できごと年表

年号 できごと
平成21年(2009年) パテックフィリップがPPシールを発表
ブライトリングが初の自社製ムーブメントB01を発表
ラルフローレンが時計事業に参入
フランクミュラーが初のスポーツラインとなるコンキスタドールを発表
ロレックスがデイトジャストII(デイトジャスト41)を発表
リーマンショック・円高の影響でロレックスの価格が大幅に下がる
平成22年(2010年) カルティエが初のメンズライン・自社製ムーブメント搭載のカリブル ドゥ カルティエを発表
ブルガリが初の自社製ムーブメント搭載モデルを発表
ウブロが初の自社製ムーブメント「ウニコ」を発表
タグホイヤーが初の自社製ムーブメントCal.1887を発表
ロレックス エクスプローラーI Ref.214270を発表
ロレックス サブマリーナ 116610LVを発表
平成23年(2011年) ウブロが独自合金によるゴールド素材「マジックゴールド」を発表
オメガが自社製ムーブメントに対し、4年間の長期保証を発表
シャネルがグランドコンプリケーションの雄・ローマン ゴティエの株式を少数取得。コンプリケーションモデルの製造開始
ハリーウィンストンが新素材「ザリウム」を使用したプロジェクトZラインをスタート
ロレックス エクスプローラーII Ref.216570を発表
ロレックス ブルー・パラクロム・ヒゲゼンマイとパラフレックス・ショック・アブソーバーを搭載したCal.3187を発表
平成24年(2012年) ETAがスウォッチグループ以外へのムーブメント供給削減を開始
エルメスが初の自社製ムーブメントCal.H1837を発表
オーデマピゲ ロイヤルオーク Ref.15400STが発表
IWCのパイロットウォッチがモデルチェンジ。マーク18が登場
チューダー ブラックベイシリーズがスタート
ロレックス 年次カレンダーを搭載したスカイドゥエラーを発表
平成25年(2013年) スウォッチグループがハリーウィンストンを約895億円で買収
カルティエがタンクシリーズ初となる自社製ムーブメント搭載モデル「タンクMC」を発表
IWCがインジュニアを刷新
グランドセイコーが耐磁モデルで公益財団法人日本デザイン振興会より「2013年度グッドデザイン賞」を受賞
ロレックスがセラクロムベゼル初のツートンカラーとなるGMTマスターII Ref.116710BLNRを発表
ロレックス デイトナ50周年を祝してプラチナ製Ref.116506を発表
平成26年(2014年) オメガがマスターコーアクシャルを発表。1,200,000A/m(15,000ガウス)という超高耐磁が話題に
ジャン・クロード・ビバー氏がLVMHの時計部門トップに就任
フランクミュラーがヴァンガードを発表
オメガがスピードマスター プロフェッショナル 311.30.42.30.01.006を発表
ロレックスがチェリーニをリニューアル
ロレックス 生産を休止していたシードゥエラー4000を復活
平成27年(2015年) チューダーが初の完全自社製ムーブメントMT5601を発表
タグホイヤーが自社製ムーブメントホイヤー01を発表
オメガがMETASと共同で新規格マスタークロノメーターを新設
ブライトリングがスーパーオーシャンをリニューアル
タグホイヤーが自社製スマートウォッチとなる「コネクテッド」を発表
ロレックスがCal.3200番台となる新世代キャリバーを発表。デイデイト40の新作に採用される
ロレックス ヨットマスターで初オイスターフレックスを採用
平成28年(2016年) IWC、パネライ、カルティエなどのリシュモングループの一部ブランドで価格改定。円高市況に伴う値下げが行われた
シチズンがフレデリック・コンスタント他スイス高級時計メーカーを買収
ヴァシュロンコンスタンタンがオーヴァーシーズを刷新。100%マニュファクチュール&ジュネーブシールを実現
ムーブメント供給会社「ケニッシ」創業
タグホイヤーが新ムーブメント「ホイヤー02T」を発表。100万円台のトゥールビヨンを実現
シャネルが初の自社製ムーブメントを発表
ジラールペルゴ ロレアートを復活
ロレックス デイトナ Ref.116500LN発表。以降、デイトナの相場が急騰する
ロレックス エアキング Ref.116900を発表
ロレックス エクスプローラーI 214270がランニングチェンジ
平成29年(2017年) ロレックスを中心に高級時計の相場が大きく上がる
グランドセイコーがセイコーから独立
イギリス投資会社がブライトリングを買収
ジラール・ぺルゴがバーゼルワールドからSIHHへ移籍
ゼニスが100分の1秒までの計測を可能にした新世代クロノグラフ「エルプリメロ9004」を発表
カルティエがパンテールを復活
新スイスネス法が施行
ルイヴィトンがスマートウォッチ事業に参画
ロレックスがシードゥエラーをリニューアル。Ref.126600として発表
平成30年(2018年) チューダー(チュードル)が日本での正規取り扱いスタート
ブライトリングがナビタイマーなど主要モデルをリニューアル
オメガを中心としたスウォッチグループが翌年以降のバーゼルワールド撤退を発表
日本発の時計専門クラウドファンディングサイト「ウォッチメーカーズ」がスタート
パネライが小径薄型のルミノール ドゥエを発表
カシオ G-SHOCKが誕生35周年を迎えフルメタルモデルを発表
ロレックスがGMTマスターIIをリニューアルRef.126710BLROとして発表
ロレックス ディープシーをリニューアル

 

時計業界の動向

ブレゲ クラシック

 

平成最後の10年を迎える少し前、未曾有の経済危機が世界を襲います。
アメリカ大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻を発表したのです。いわゆるリーマンショックですね。
世界中で金融市場が麻痺し、同時不況に見舞われ、一気に経済が冷え込みました。

時計の本場・スイスでもこの影響をモロに受けます。
アメリカがいち早くドル安政策をとったことでスイスフランが一気に高騰。また、中国経済が失速し、拡大しつつあったアジアへの輸出額は下降線を描いていきました。
この時期、高級時計の相場は下落し、ロレックスのデイトナですら100万円をきる価格で売られていたものです。

しかしながらスイス時計産業は、比較的早く持ち直します

スイス時計製造

2009年には確かに輸出額は落ち込みましたが、徐々に回復。
また、この間も多くのブランドが自社製ムーブメントの開発に意欲的で、ブライトリングのB01やタグホイヤーのホイヤー01など、この時代に輩出された名機は数知れません。
ただ、2000年代に顕著だったコンプリケーション戦争から、より実用に即した、シンプルな機能にはシフトするようになりました。

このように前時代のバブルとは言えないまでも、安定した春を謳歌していた時計産業。世界経済も、成長率は鈍化していましたが、東南アジアやアフリカなど「第三世界」の台頭によって販路を順調に拡大していきます。

しかしながら、クォーツショックに次ぐ、機械式時計を震撼させるような世相がジワジワと広がっていくようになります。
それは、小型デジタル機器の台頭によって、「腕時計をしなくても事足りる」といった風潮が出始めてきたことにあります。

デジタル機器

そんな小型デジタル機器の際たるものが携帯電話でしょう。

平成の時代は、携帯電話とともにあったと言っていいでしょう。
昭和末期に出たこの便利な箱は、どんどん小型化が進み、そして便利になり、今では国民が一台ずつ持っている、という計算となります。

この風潮が加速したのが、スマートフォンの開発でしょう。Apple社のiPhoneが市販されたのは2007年のことです。以降、スマートフォンは便利で手軽で、生活のあらゆることを一台で担えるという、圧倒的な利便性が支持されるようになりました。もちろん、時間を知るなんてわけがありません。

2012年にはこのスマートフォンと連動した「スマートウォッチ」が世の中を席捲するようになります。
腕時計にBluetoothなどの通信モジュールを搭載させ、「時間を知る」以外のありとあらゆる機能を時計に拡張させたのです。

このスマートウォッチが広まっていくにつれ、機械式時計メーカーは一つのターニングポイントを迎えたと言っていいでしょう。
タグホイヤーやウブロ、ブライトリングなど、ブランドの中には時計製造ノウハウを活かしたスマートウォッチを開発するところも出てくるようになりました。

ブライトリング スマートウォッチ

出典:https://www.breitling.co.jp/products/pickup/backnumber/16_jan/

 

一方で機械式時計が、クォーツショックの頃と同じように危機に瀕していると問えばそうではありません。
2016年、急激なスイスフラン高で一時は時計産業にも影響が出るものの、その後は順調に回復。むしろ、かつてないような時計市場の広がりを見せていると言っていいでしょう。
前述のように新興国でのニーズが増したため、多くの人気ブランドが好調な売り上げを記録しており、相場は上昇傾向。ロレックスのデイトナやパテックフィリップのノーチラスなど、一部人気モデルでは、未曾有のプレミア価格をたたき出しているものも存在します。

確かに「腕時計はいらない」「持つならスマートウォッチ」といった層が広がっていることは事実です。
しかしながら冒頭でも述べたように、機械式時計の魅力は「便利さ」だけでは語れないところがあります。それは、クォーツショックからの復活で、機械式時計自身が証明した通りです。
今後、その価値を「いらない」と言った層―特に若年層―にどう伝えるかが、令和の時計業界の課題ではないでしょうか。

 

時計業界のトレンド

IWC ポートフィノ

華やかなコンプリケーションが店頭を賑わせた2000年代とは一転、平成最後の10年は「実用」に即した時計が主流となりました。
3針+日付、ステンレススティール製・・・そんなシンプルな腕時計が人気を博すようになります。
また、同じ複雑機構であっても、トゥールビヨンといった「見た目の美しさ」ではなく、GMTやクロノグラフといった、やはり実用に即したものがラインナップのメインストリーム。先ほど「業界の動向」の項の文中で「相場は上昇傾向」とお伝えしましたが、現在高騰を記録しているモデルのほとんどがシンプル機能×ステンレススティール製のスポーツモデル。むしろ、金無垢やダイヤモンド付きモデルなどと相場を逆転する、という現象まで起きています。

パテックフィリップ ノーチラス 5711/1A

↑2019年現在、相場が800万円を超えたパテックフィリップ ノーチラス 5711/1A-010

 

こういった「実用」重視の背景には、やはりリーマンショックから続く一連の世界金融危機が無関係ではないでしょう。大不況を経験し、「普段から便利に使えて、末永く愛用できる」という堅実な考えに消費者マインドがシフトしていったのです。

ブランド側もこの購買傾向を踏み、実用面を強化。デジタル機器に対抗できるという点でも、やはり利便性の強化は望むところですね。
その波が顕著に表れているのが「アフターサービス戦争」とも呼べる、保証期間の延長戦略です。

タグホイヤー、ゼニスにブライトリング、オメガなどが、従来は2年がスタンダードであった製品保証期間を4年、5年などに延長していきました。2015年には、大御所ロレックスまでもが5年保証に乗り出します。

このようにして、高級品であっても、いや、高級品であるからこそ、「実際に毎日使うこと」を前提としたサービス提供が主流となったのです。

 

ハミルトン セイコー

もう一つ忘れてはいけないトレンド。それは、「復刻ブーム」の到来です。

1990年代~2000年代にかけて起こったデカ厚ブーム。決して廃れたわけではないのですが、世の中の流れが「ダイバーシティ」になっていくにつれ、時計のラインナップも多様性が活きてくるようになりました。
猫も杓子もデカ厚ではなく、色々な時計があってもいいんじゃない、と。
そんな中、1980年代以前に製造されていた、小径ケースでドレッシーなデザインの多かったヴィンテージ(アンティーク)への注目が高まります。
歴史のあるブランドは、その当時のモデルのデザインを踏襲し、現代技術を搭載させた新シリーズを続々発売するようになりました。

現在この復刻ブームが最大のトレンドとなりつつあります。
歴史のある機械式時計ならではのトレンドと言えるでしょう。

 

リーマンショック後の日本の高級時計市場

グランドセイコー

日本もご多分に漏れず、リーマンショックによって大不況を経験した国の一つです。
もともとアメリカ経済への依存度が高かったこともあり、急激な円高で輸出産業を中心にダメージを受けました。
2011年には東日本大震災があったこともあり、難題が多かった時代です。

しかしながら2012年に安倍内閣が発足し、円安傾向へ転換。2013年にはオリンピック開催都市が日本の東京に決定したこともあり、世の中が明るいムードに包まれました。
景況感は一気に高まり、実際に今に至るまで好景気とも言われます。この長さは、戦後二番目にあたるそうです。

リーマンショック後は高級品需要は一気に下落し、スイス時計の対日輸出もがくんと落ち込みましたが、じょじょに回復。ただ、時計業界のトレンドと同様、日本の高級品需要も「堅実志向」が主流となっていくようになりました。

グランドセイコー メカニカル

2016年を超えると、また違った流れが日本の高級時計市場を席捲します。
それは、かつてないほど需要が高まり、高級時計への注目度が上がっていった、ということです。

前述の通り、様々な小型デジタル機器が出たことにより、時計に全く興味のない層もいます。
しかしながら高級時計へのニーズはむしろ高まっており、その年齢層は高いところに集まっているわけではなく、幅広いファンを抱えます。

こういった日本の消費者の購買傾向に、平成の後半あたりから、ある一つの変化が起こってくるようになりました。
それは、「売れるモノを買う」というマインドです。

これもまた時計市場だけに限った話ではありませんが、平成最後になり、リユース市場がにわかに活気づくようになりました。買って楽しむだけで終わり、ではなく、使わなくなったら売って現金化する、というものです。これは省エネ・省資源というエコロジーの観点から、むしろ推奨される向きもあります。
街中には一般消費者が気軽に立ち寄れる時計買取専門店が立ち並び、また、メルカリなどのフリマアプリが賑わいます。

買取

日本では「モノを資産として考え、有事の時に売る」という考えはもともとありましたが、今ほど気軽に、そして幅広い層が利用するようになったのは平成後半に入ってからです。

高級時計においても「リセールバリュー」が注目されるようになり、ロレックスやパテックフィリップという「売れるブランド」がますますの注目を集め、相場を上げる・・・といった図式を描くようになったのです。

ちなみに今回、どうしても時計業界の中心地であるスイス産業にフォーカスしてしまいましたが、平成という時代の日本発時計メーカーの躍進は目を見張るものがあります。

シチズン、セイコーおよびそこから独立したグランドセイコーなどは海外シェアをますます広げており、注目度も決して低くありません。また、スイス時計メーカーに時計のパーツを卸している下請け企業も、実は日本に多いってご存知でしたか?日本時計産業はヨーロッパやアメリカの時計産業から大きく後れを取って出発し、クォーツショックで打撃を与え、さらに機械式時計においても巻き返しを図っています。例えばグランドセイコーのメカニカルは、「最高の普通」「実用時計の最高峰」と称され、世界各国で高い評価を得てきました。

この日本勢の強烈な推進力は、令和も続いてくれるでしょう。

 

まとめ

平成という30年間を、時計業界の動向やトレンド、市場傾向などから改めて振り返ってみました。

30年という年月は、時計業界および日本経済に、酸いも甘いも様々な事件をもたらしたものです。

とは言え平成が幕を閉じた今、高級時計市場はかつてない広がりと成熟を見せています。

令和の時代も、時計産業の動向はますます発展の広がりを見せる。期待も込めて、そんな展望を描いてこの記事を終えます。

 

 

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