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【実験】腕時計を磁気に近づけたらどうなる?磁気帯びの症状と対策方法を徹底解説

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腕時計 磁気帯び

「腕時計の磁気帯びって何?」
「腕時計を磁気に近づけたらどうなるの?」

腕時計の不具合は、まず磁気帯びを疑え。

こう言っても過言ではないほど、磁気が原因となる腕時計のメンテナンス事例は多いものです。

現代に多い、腕時計の磁気帯びについて知りたいと思っている人は多いのではないでしょうか。

時計は精密機器である為、少しの磁気でも多大な影響を及ぼします。

この記事では腕時計の磁気帯びについて、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。

身近にある磁気発生源についても紹介していますので、腕時計を長く愛用したい方はぜひ参考にしてください。

腕時計の磁気帯びとは?

腕時計の修理案件においてよく持ち込まれるのが、磁気帯びによる精度不良及びパーツの不具合です。

磁気帯びとはその名の通り、腕時計―正確に言うと、ムーブメントのパーツ―が磁気を帯びてしまい(磁化とも)、内部パーツの正常な動作に悪影響を及ぼしている状態を表します。

機械式時計 磁気帯び

この原因は、ムーブメントを構成するパーツの多くが金属製であるため。金属は磁気の影響を受けると、磁石のようにくっついてしまう性質を持ちます。さらに磁力の発生源から離した後も磁石の性質はしばらく維持されます。

つまり、腕時計における磁気帯びとは、磁力の発生源と腕時計を密着させた結果、腕時計内部パーツに磁石の性質が残ってしまった状態を指します。機械式時計の部品は磁気を帯びやすい「強磁性体」の金属を使っている為、それが顕著に現れるわけです。

 

強磁性体:外部から磁界を加えると磁界と同じ方向の磁気を強く帯びるとともに、外部からの磁界をゼロにしても強い磁気が残る材料

 

さて、では時計が磁気帯びしてしまうと、どのようなことが起こるのでしょうか?

最も多い症例は精度不良(特に時間の進み)です。なぜなら磁気帯びの大きな影響を受けるのが、ヒゲゼンマイであるためです。腕時計の精度を司るヒゲゼンマイが磁化(磁石の性質を有する)した結果、パーツを引きつけてしまうのです。

機械式時計 ヒゲゼンマイ

ヒゲゼンマイとは時計の心臓部であるテンプを構成するパーツの一つであり、ヒゲゼンマイが伸縮を繰り返すことにより、時計は正確な時間を刻みます。

ヒゲゼンマイが伸縮をすると、テンプは車輪のように左右に回転運動をはじめ、他の歯車やパーツに1秒間に1回針を進めさせる振動を与えます。この振動こそが、時計の精度に繋がるわけです。

しかし、ヒゲゼンマイが磁気帯びしてしまうと、ヒゲゼンマイの伸縮が乱れ、テンプが正確な時間を刻めなくなります。これにより精度が狂いやすくなるのが磁気帯びの典型的な症状です。

さらに磁気を帯びた金属同士は引き寄せ合ったり離れたりするため、各種歯車の位置が狂うことでパーツの破損に繋がるケースも多いです。

軽度の磁気帯びであれば磁力元と時計を離すことで磁気帯びが解消されることもありますが、精度が悪い状態が続く場合は修理店で磁気を取り除く必要があります。

磁気帯びを自分で確認する方法

「方位磁石(コンパス)」を使えばご自身で磁気帯びを判別することができます。

方位磁石

もし腕時計が磁気帯びしている場合、時計を方位磁石に近づけるとコンパスの針が振れます。これはコンパスが磁力に反応していることを意味します。

少し動くぐらいなら神経質になる必要はありませんが、大幅に動くようなら磁気抜きが必要なサインです。

 

 

【実験】腕時計を磁石に近づけて磁気帯びさせてみました!

腕時計がその構造上、磁気に弱いことはお伝えできたかと思います。とは言えコンパスを使ったとしても、本当に磁気帯びしているのかどうか、どういった症状になるのかはわかりづらいですよね。

そこで実際に機械式時計を強力な磁石にくっつけて磁気帯びさせ、どのような反応を示すのかを実験してみました!使用したのはこちらの自動巻きモデルです。

腕時計 磁気帯び

なお、前述の通り、磁気帯びを確認する最も簡易な方法はコンパスに近づけてみる、というものです。通常コンパスの針は同じ方角を指し続けるものですが、磁気を帯びた物体を近づけるとこの針が大きく動くこととなります。

まだ磁気を帯びていない状態の腕時計は、近づけただけでは針は全く動きませんでした。

また、タイムフグラファー(歩度計測器)を用いて、精度の計測も行いましたが、きわめて良好。下記表が、それぞれの数値です。ちなみに当モデルのムーブメントの振動数は28,800振動/時です。

姿勢 実測値
平置き 歩度-3 / 振り角314° / 片振り0.0ms
リューズ下 歩度-1 / 振り角280° / 片振り0.1ms

 

※歩度・・・日差のこと。精度とも。一日に何秒進むまたは遅れるかをテンプの振動数をもとに計測している。一般的に-10~+20秒程度が良好とされる

※振り角・・・テンプが左右に振れる角度のこと。250度~320度程度が望ましい

※片振り・・・ビートエラーとも言われ、左右金等にテンプが回転しているかどうかを示す。0.0~0.2程度が良好とされる

 

このモデルはシースルーバックになっており、裏蓋側からテンプの動きが確認できますが、これまた正常ですね。

 

それでは強力なマグネットにくっつけてみましょう!

磁力の強さは磁石から距離が近いほど、与える影響も強くなります(磁石からの距離の2乗に反比例)。ここでは思い切り裏蓋にくっつけてみました。

まず15秒程度近づけたところで離し、腕時計をコンパスに近づけてみました。

すると、針が大きく動くことに・・・!つまり、磁気帯びしていることを示唆していますね。

もっとも、この直後にタイムグラファーで精度を計測したところ、歩度が+1秒にはなっていたものの磁気帯び前と大きく変わりませんでした。

そこで今度は、裏蓋を外して直接1分程度、磁石をくっつけてみることにします。

コンパスの動きは変わりませんでしたが、タイムグラファーで計測してみると・・・!?

姿勢 実測値
平置き 歩度+27/ 振り角270° / 片振り0.0ms
リューズ下 歩度+24 / 振り角266° / 片振り0.1ms

 

なんと、歩度が大きく進むこととなりました!テンプの振りも、正常値とは言えかなり落ちていることが見受けられます。ちなみに振り角はかつては大きい方が高精度と言われていましたが、これは振り当たりも誘発することとなり、現在では必ずしも大きい個体ばかりというわけではありません。とは言え磁気帯び前後で数値が大きく変わっていると言うのは、「異常」ですよね。

また、タイムグラファーには各数値の下のスペースに打点が見受けられるかと思います。

これは精度の遅れ・進みを表しており、上方向が進み・下方向が遅れとのこと。急速に右肩上がりをしていることがわかりますね。

 

とは言え磁気帯び前後で、見た目に関しては大きな違いは見受けられませんでした。

ヒゲゼンマイの動きだけで判別するのも難しいでしょう。

 

外装の破損や風防の曇り(水気が内部に侵入してしまったことを示す)などと異なり、ぱっと見ただけではわかりづらい磁気帯び。しかしながらタイムグラファーで計測すると、精度に大きな影響を及ぼしていることがよくわかりますね。

この見ただけではわからない不具合と言うのも、磁気帯びの恐ろしさかもしれません。

 

 

腕時計が磁気帯びしてしまったらどうすればいいの?

磁気帯びのみの不具合であれば、メーカーや修理店、あるいは購入店に持ち込むと、すぐにその場で磁気抜きしてもらえるでしょう。

業者は磁気抜き機(脱磁機)を備えていることがほとんどです。脱磁機にも様々なタイプが存在しますが、基本的な原理は同じです。

高級時計 磁気抜き

ただし脱磁の際は腕時計に負荷がかかっています。

また取り扱いを誤ると、かえって腕時計を磁気帯びさせてしまう原因に。

そのためプロにお任せすることをお勧め致します。購入店であればアフターサービスの一環で無償対応してくれるところも多いですよ!

腕時計を磁気帯びさせない為に気をつけたいこと

腕時計を磁気帯びさせない為には磁気に近づけないことが一番です。

まずは身近にある磁気発生源について知っておきましょう!

 

身近にある磁気発生源

磁気帯びが原因で時計を修理に出される方は非常に多いですが、「不具合の原因となった理由が分からない」と言った声を頂きます。

それもそのはず、普段磁気を気にされているという方は、そこまで多くはないためです。

しかしながら、私たちは日常生活においては無意識の中で相当な磁力の影響を受けて生活しています。

以下は腕時計に影響を与えやすい電化製品のリストとなっているので、こちらをご覧ください。

磁気発生源 磁気の影響(密着状態 / 5cm離す / 10cm離す)
スマートフォン スピーカー部分 ~16,000 A/m / ~400 A/m / 0
携帯電話 スピーカー部分 ~22,400 A/m / ~1,600 A/m / ~240 A/m
携帯ラジオ スピーカー部分 ~16,000 A/m / ~400 A/m / ~60 A/m
携帯オーディオ機器 ~12,000 A/m / 0 / 0
タブレット端末 ~38,000 A/m / 0 / 0
ノートPC スピーカー部分 ~8,000 A/m / 0 / 0
磁気健康敷布団 ~40,000 A/m / 0 / 0
磁気健康腹巻き ~44,000 A/m / 0 / 0
磁気健康枕 ~48,000 A/m / 0 / 0
磁気ネックレス ~96,000 A/m / 0 / 0
肩こり磁気製品 ~144,000 A/m / 0 / 0
家具のドア マグネット ~64,000 A/m / ~1,200 A/m / ~180 A/m
バッグの留め金 ~72,000 A/m / 0 / 0

 

磁石が持つ力は「磁力」と呼ばれ、金属を引き付ける性質を「磁気」、磁力のある空間を「磁界」と表現します。

上記は身近な家電製品や健康用品でありながらも磁気が強く、スピーカー類に関しては磁界が非常に強いです。

「普通に使っていた」「磁気化させた覚えはない」このように思っていても、このような磁気製品から磁力の影響を受けてしまっている時計は実に多く存在します。

特にバッグの留め金やスマホのスピーカーなどは時計をバッグにしまった時に磁気化させやすいので注意が必要です。

 

普段のちょっとした気遣いが大切!

磁気を恐れるばかりに、腕時計の着用を控えてしまうのはとても悲しいことです。普段の、ちょっとした気遣いで磁気帯びは防げます。

ヒゲゼンマイ 磁気帯び

https://www.rolex.com/ja/watches/rolex-watchmaking/new-calibre-3255.html

前述の通り、機械式時計はヒゲゼンマイが磁気帯びすることで精度に狂いが生じますが、ヒゲゼンマイ自体はムーブメントやケースに守られている為、磁力の強いモノによほど密接させなければ強く磁気帯びすることはそう多くありません。

磁気の強さは磁石からの距離の2乗に反比例するということは、すなわち距離を離せば影響を最小限にできるということ。腕時計を、5cm〜10cm以上磁気から離すことで、その干渉はなくなります

そのため過剰に磁気を恐る必要はなく、基本的には普段通りに生活していれば磁気帯びする頻度はそこまで多くはありません。

機械式時計 磁気帯び

もっともスマホのスピーカー部分やバッグの留め金などには十分気をつける必要があります。

これらは時計を磁気化させる事例の多くを占めるモノであり、最も身近な磁気発生源となります。

特にスマホを入れたカバンの中に時計を乱雑に入れてしまった時に磁気化は発生しやすいので、時計をつけて外出する際には出来るだけ身につけたままにしておくのをおすすめ致します。

また、エレベーターの壁も磁気が強いので、時計と壁が密着しないように心がけてください。

何気なく寄りかかっていたら時計が磁気帯びしてしまったというケースもしばしば見受けられます。

 

なお、近年では磁気帯びしづらい素材をヒゲゼンマイに用いるブランドも増えてきており、耐磁時計の性質を持つモデルは少なくありません。こういった耐磁時計を購入するというのも、一つの手ですね!

 

クォーツ腕時計も磁気帯びするのか?

クォーツ時計はヒゲゼンマイが使われていないから帯磁しないのではないか?

このように思われている方は多いです。

しかしながら、クォーツ時計も磁力によって磁気帯びします。

セイコー 9fクォーツ

出典:https://www.grand-seiko.jp/about/movement/quartz/

クォーツ時計は精密な歯車の集合体で作られている機械式時計と比較すると壊れにくい性質があります。

ですが、クォーツ時計は磁石の性質を使ったモーターが取り付けられているため、実は磁気の影響を受けやすいのです。

 

クォーツ時計 磁気帯び

機械式時計はヒゲゼンマイが磁気化して精度に狂いが生じますが、クォーツ時計は内部にあるモーターが磁気に影響を受けることにより、時間の進みが不安定になったり、針が止まるといった症状を引き起こします。

ただ、クォーツ時計はパーツが少し磁化されてもほとんど影響がない作りとなっている為、ずっと帯磁し続けるということがほぼありません。

磁気を放つ物質から時計を離せば、大半が元通りになります。

これこそが一度磁気化すると磁気抜きするまで影響がある機械式時計との大きな違いです。

 

クォーツ時計 磁気帯び

クォーツ時計は磁化しても故障の原因になることは稀ですが、だからといって強い磁気に長時間触れさせることはNGです。

回路自体をダメにしてしまうこともあります。

腕時計にとって強い磁気が天敵であることには変わりありませんので、クォーツ時計であっても磁気には十分お気を付けください。

 

まとめ

  • 金属(ムーブメント部品)は磁気の影響を受けると、磁石のようにくっついてしまう性質を持つ。
  • 時計と磁気発生源が密着することで、時計の部品が磁化する。
  • ヒゲゼンマイが磁化してしまうことで精度が乱れる。

磁気帯びの典型的な症例は上記の通りです。勿論、ヒゲゼンマイ以外のパーツにおいても、部品の位置がずれたり、動かなくなったりする可能性があります。

時計は精密機器である為、少しの磁気が多大な影響を及ぼすわけです。

時計を磁気帯びさせないために出来ることは「磁気と密着させない」これに付きます。

5cm~10cm以上磁気から離せば、磁気帯びを防ぐことが出来るので、今一度磁気と時計を遠ざけることを実践してみてください。

当記事の監修者

廣島浩二(ひろしま こうじ)

(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 課長

1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年

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