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クロノグラフによくあるトラブルと正しい取り扱い方法

廣島浩二, 腕時計修理・メンテナンス大全

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腕時計の機構の中でも、とりわけ人気の高いクロノグラフ。

時間計測が可能という機能性もさることながら、独特のインダイアルやスケールに由来する「クロノグラフらしいデザイン性」が、我々を魅了していますね。

とは言えクロノグラフ、シンプルな3針モデルに比べると複雑な構造となっており、取り扱いには注意が必要です。誤った使い方によって、高額な修理費用が発生してしまうことも!

そこでこの記事では、クロノグラフによくあるトラブルとその原因。そして末永くクロノグラフを愛用していくために知っておきたい取り扱い方法について解説いたします。

※修理費用の相場を掲載しておりますが、当店GINZA RASINの提携工房での修理費用をもとに算出しております。修理先やモデルによって変動しますので、参考程度にお読み下さい。

 

クロノグラフによくあるトラブルとその原因

最も多いクロノグラフのタイプは、2時位置のプッシュボタンによってクロノグラフ針をスタート・ストップ。そして4時位置のプッシュボタンによってリセットし、クロノグラフ針をゼロ位置に帰針させるといったものです。

この時、いつもと違う動きをする・そもそも動かないなどありましたら、それはトラブルのサインです!

クロノグラフに多い修理事例とその原因を知って、未然にトラブルを防ぎましょう!

 

トラブル①クロノグラフが作動しなくなった・すぐに止まってしまう

スタートボタンを押下しても、クロノグラフ針が動き出さない。

少し動いたと思っても、すぐに止まってしまう。

十分ゼンマイを巻き上げているにもかかわらずクロノグラフの動作不良が見られる場合、原因の一つに油切れが考えられます。

その他ではクロノグラフのレバーやカムネジなどといったパーツの劣化・破損、あるいはプッシュボタン自体が不良となってしまったことに起因します。

こういった原因でのクロノグラフ不動の場合、オーバーホールのみであれば民間修理業者で30,000円程度~。パーツ交換が発生したとしても、修理業者で別作できるようであればプラス5,000円前後~といった修理費用の相場感となります。

油切れや金属疲労によるパーツ破損は、定期的なオーバーホールを行うことで防げます。一方で誤操作(クロノグラフ針が動いているにもかかわらずリセットボタンを押してしまう等)や衝撃・振動によってこのトラブルが引き起こされることも多いもの。

取り扱い説明書に則った操作を心がけましょう!

 

トラブル②プッシュボタンが取れた

意外と多いのが、プッシュボタンが取れてしまったというトラブルです。

原因としては、クロノグラフに強い衝撃や振動が加わったことで、プッシュボタンの軸が破損してしまったことが一つに挙げられます。

取れたプッシュボタンを紛失しておらず、取り付けのみであれば民間修理業者で10,000円前後~となります。

プッシュボタンを無くしてしまった場合は、別作にしろ純正品にしろ、パーツ費用がかかってきます。素材やモデルにもよりますが、当店での過去の修理履歴を見ると、20,000円程度~が相場感です。

ただしメーカーでプッシュボタンを手配する場合、部分修理を受け付けず、オーバーホールやコンプリートサービスとセットになることが往々にしてあるため、注意が必要です。

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なお、プッシュボタンが外れた際、軸がきれいに残っていることがあります。これは、自然に取れてしまったことを示唆しています。

稀にプッシュボタンの取り付けの接着が不十分だったなどという事例もあります。自然落下は保証内修理となる可能性も高いので、まずは購入店やメーカーに相談してみましょう!

 

トラブル③クロノグラフ針をリセットできない

リセットに関するトラブルの原因は、いくつかあります。

まずパーツ破損。メンテナンスを行っていないことによる油切れや金属疲労の他、誤操作もトラブルの原因として大変多いです。繰り返しになりますが、定期的なオーバーホールや正しい操作・取り扱いが、思わぬトラブル回避には最適な対策です。

 

また、プッシュボタン周りの破損や劣化も、リセットできない原因となります。

プッシュボタンは衝撃や振動で変形・破損することも多いですが、盲点なのが汚れやサビの詰まりです。

プッシュボタンやタキメーターベゼルがある分、クロノグラフはシンプルなモデルよりも外装の構造が複雑です。そのため、プッシュボタンの周りや溝には汚れが溜まりがち。詰まりは洗浄で改善することもありますが、破損してしまったりサビついてしまったりしては、部品交換が必要になります。

オーバーホールの有無や交換パーツの部位にもよりますが、費用が50,000円前後~となってしまうことも少なくありません。

正しい取り扱いはもちろんのこと、ご自身でのお手入れもトラブル回避に重要なポイントとなります。

 

トラブル④クロノグラフ針がズレる

クロノグラフ針がゼロ位置からズレてしまっている・・・

このトラブルで考えられる原因は、針のハカマの緩みです。

ハカマというのは、針を取り付けるためのパーツです。

ハカマは衝撃や振動でも緩んでしまうものですが、加えて経年やクロノグラフのリセット時の負荷によって劣化するといった側面もあります。

針の取り付け直しのみであれば高額修理にはなりませんが、針交換やハカマの別作となると、民間修理業者で10,000円前後~といった費用感です。また、別作には一か月程度かかることも。

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とは言えハカマは経年でどうしても劣化していってしまうものです。

針ズレを放置すると、針そのものが外れてしまい、文字盤やインデックスを傷つけてしまうこともあります。やはり定期的なオーバーホールによって、トラブルを未然に防ぎたいですね。

 

ただしクォーツ式クロノグラフの針ズレは、ご自身で修正できる場合があります。

これは「ゼロ位置修正」「ゼロ位置合わせ」等と呼ばれる操作で、規定の操作後プッシュボタンを長押しし、クロノグラフ針をぐるっと一周させることでゼロ位置に合わせるものです。

ムーブメントによって操作方法は異なりますが、そこまで煩雑ではないので、クォーツ式クロノグラフの針ズレが見受けられた場合は試してみましょう!ただしクォーツ式クロノグラフでも不具合での針ズレがありますので、規定の操作をしても直らない、あるいは操作ができない。もしくはリセット時に、毎回異なる位置に戻ってしまうといった場合は、修理が必要となります。

トラブル⑤クロノグラフ針の動きがおかしい・針飛びする

クロノグラフを作動させた時、針の動きがいつもよりスムーズでなかったり、一度に大きく針がジャンプしてしまったりする不具合・・・初見では、ビックリしてしまうものですよね。

これはクロノグラフランナー(クロノグラフ針を回すための歯車。クロノグラフホイールとも)のホゾ(軸)が折れてしまっていたり、フリクションスプリングが弱まってしまっているなどといったパーツ破損・劣化が原因として考えられます。

オーバーホールとパーツ交換で修理対応が可能ですが、モデルによってはクロノグラフモジュール内のパーツは民間修理業者では入手できない場合もあり、別作も高額となる可能性があります。

破損は誤操作や衝撃・振動が原因となりやすいため、気を付けたいところです。

 

トラブル⑥積算計が正常に稼働しない

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クロノグラフの計器然とした顔立ちを強調する積算計。インダイアルとして文字盤に配列されており、30分で一周する30分積算計や12時間で一周する12時間積算計などが存在しますね。

この積算計の不具合も、やはり様々な原因が考えられます。

例えば前項でご紹介したハカマの緩みによる針ズレは、積算計でも起こりえます。また、リセットボタンによって積算計の針もゼロ位置に戻ることとなりますが、プッシュボタンの不具合によってリセットできないといった事例も、クロノグラフ針と同様です。

一方でクロノグラフ歯車の嚙み合わせ不良や積算計を制御するレバーのバネ圧不足、歯車のホゾ劣化・破損によって動作しない。あるいは香箱と積算計を連動させて制御するストップレバーが劣化して積算計が止まらないなどといった事例もあります。

調整のみであれば高額修理にはなりづらいものの、オーバーホールやパーツ交換とセットとなる場合も少なくありません。

これまた定期的なメンテナンスと正しい取り扱いが求められます。

 

クロノグラフを末永く愛用するために知っておきたい正しい取り扱い

クロノグラフは複雑機構に分類されるため、修理代も高くなる傾向にあります。

また、前項でも何度か言及しているようにパーツ交換ではメーカー対応となることも少なくなく、そうなった場合に高額なコンプリートサービス料金が発生することも。

思わぬ出費を避け、大切なクロノグラフを末永く愛用するために。正しい取り扱いについて知っておきましょう!

 

クロノグラフの正しい取り扱い①ずっとクロノグラフ針を稼働させない

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基本的に時計が動いている限り、パーツは負荷が与えられ続けています。

最近製造されたモデルであれば油やパーツが改良されており、負荷への耐性は高まっているとは言え、経年による劣化は免れません。

そのため各パーツは消耗品と割り切ることも大切ですが、それでも負荷はできるだけ少なくしたいもの。

負荷を低減させるためには、クロノグラフ針をずっと稼働させないようにしましょう

一部ブランドでは秒針がわりに稼働させられる仕様のモデルもありますが、負荷が少ないに越したことはありません。とりわけクロノグラフのリセット時の負荷は大きくなりがちです。また、針がずっと稼働しているということは、ハカマの緩みを誘発します。

クロノグラフは計測時にのみ使うようにしたいですね。

 

クロノグラフの正しい取り扱い②クロノグラフをたまには稼働させる

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①で「できるだけ負荷を低減する」と述べましたが、一切クロノグラフを動かさないというのも、トラブルのもとです。

これまた最近製造されたモデルであれば問題ないこともありますが、年式を経た個体だと内部が固着してしまったり、ねじ込み式プッシュボタンが固着してしまうなどの原因になります。また、動かさないまま月日が経つことで、不具合に気づかず放置されてしまうといったことにもなりかねません。

頻繁に動かす必要はありませんが、たまにはクロノグラフを楽しむ時間を作ってみて下さいね。

 

クロノグラフの正しい取り扱い③スタート・ストップ・リセットの順番を必ず守る

クロノグラフ 制御方式

なんだかんだトラブルの原因で非常に多いのが、誤った使い方による故障です。

クロノグラフ針が動いているのにリセットボタンを無理やり押した。あるいはプッシュボタンに負荷のかかる方向から強く押した・・・基本的に誤操作が起きないように、クロノグラフ針稼働中はリセットボタンが押せない仕様となっているものですが、もともと押し込みに力のいる個体だと、力を入れてしまったという方は少なくありません。

何度か繰り返し述べているように、パーツ破損は思わぬ高額修理に繋がることも。

クロノグラフは精密機器!取扱説明書をよく読み、正しい操作を心がけましょう!

 

クロノグラフの正しい取り扱い④フライバック・クロノグラフを頻繁に使わない

オーデマピゲ CODE1159

前項で「クロノグラフ針が稼働しているのに、リセットボタンを押下することは故障の原因になる」ことを解説いたしました。

しかしながら、このクロノグラフ針稼働中でも、リセットボタンを押すことで瞬時に帰ゼロさせる機構があります。それが、フライバック・クロノグラフです。スタート・ストップ・リセットの手順のうち、ストップを省くことができるため、より精密な連続計測が行える上位機構となっております。

「クロノグラフ針稼働中でもリセットできる」とは言え、やはりリセットの負荷は大きく、繰り返し使用しているとその分パーツの劣化が加速します。そのため頻繁にフライバック・クロノグラフを使うのを避ける、というのも末永く愛用するポイントです。

 

クロノグラフの正しい取り扱い⑤衝撃・振動には要注意!

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クロノグラフは非常にポピュラーですが、実は内部構造が大変複雑で、自社製造できるブランドはそう多くはありません。

こういった複雑機構はシンプルなモデルに比べて衝撃・振動に弱いものです。

また、クロノグラフモジュール内のパーツ入手は難しいケースも多いため、交換や別作が高額になることも。

もっとも全ての機械式時計に言えることですが、強い衝撃や振動にはことさら注意したいですね。

高い位置に保管しない、自動巻きの巻き上げの際に時計を大きく振らない、保管の際は専用ケースに収納するなどといった対策はお勧めです。

クロノグラフの正しい取り扱い⑥使用後のお手入れは欠かさない

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これまたクロノグラフのみならず、全ての腕時計に言えることですが、一日中腕に装着した後の汗や汚れ・ホコリを放っておくと、大きなトラブルの原因となります。

例えば外装にサビが発生してしまったり、プッシュボタンやねじ込み式リューズが固着してしまったり・・・また、清潔でない状態で腕時計を着用し続けると、金属アレルギーの原因となることも。

こういった汚れを放置することは、百害あって一利なしです!使用後のお手入れは欠かさず行いましょう!

何も特別なことをする必要はありません。使用後は清潔なクロスで丁寧に拭き、プッシュボタンやベゼルの溝部分はつまようじや乾いた柔らかめの歯ブラシで汚れをかきだしてあげましょう。強い力でゴシゴシすると傷がついてしまいますので、優しく丁寧に、溝に沿って行うことが大切です。

詳しいセルフお手入れ方法は、下記の記事がご参考になれば幸いです。

クロノグラフの正しい取り扱い⑦定期的にオーバーホールする

ブランド オーバーホール料金 まとめ

クロノグラフを末永く愛用するために必要なのが、定期的なオーバーホールを欠かさないことです!

機械式時計は4~5年に一度程度、クォーツ式時計も7~8年に一度程度のオーバーホールが推奨されます(ブランドにもよりますが)。

オーバーホールとは、ムーブメントの分解洗浄のこと。ムーブメントのパーツ一つひとつをバラして洗浄・新しく注油し、また組み立てなおすといった一連の作業を指しますが、これを行うことで新たな潤滑油を指し、スムーズな動作を実現することはもちろん、技師は劣化・破損したパーツを見つけて、適切に処置していきます。

劣化したパーツを放置するとより大きな故障に繋がったり、他のパーツも連動して動作不良を起こすことがあります。そのため定期的なオーバーホールによって早めに不具合を見つけ、対処しておきましょう!

オーバーホールは確かに費用もかかりますが、故障を放置した後の修理費用の方が高額になってしまいます。

末永くお気に入りのクロノグラフを愛用するための維持費と考えれば、高すぎることはありませんよね。

まとめ

クロノグラフによくあるトラブルと原因。そして正しい取り扱い方法について解説いたしました!

クロノグラフのデザインや針の動作は、腕時計の醍醐味の一つですが、一方で取り扱いを間違えてしまうと思わぬ故障に繋がってしまいます。

適切に扱って、大切なクロノグラフを一生のパートナーにして下さいね。

当記事の監修者

廣島浩二(ひろしま こうじ)

(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 課長

1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年

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