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【実験】パワーリザーブ48時間の時計は本当に48時間駆動するのか?

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機械式腕時計のスペック欄に記載される「パワーリザーブ」。

これは機械式時計を動かすゼンマイがほどけきるまでの時間を示しており、すなわち腕時計の駆動時間(持続時間)となります。例えば「パワーリザーブ約48時間」と表記されていたら、その腕時計は2日間に渡って動き続ける、と。

そうは言ってもこの数値は、メーカーが完成したばかりのムーブメントに、負荷を与えない状態で計測したものとなります。では実際に私たちが使っている腕時計は、どれくらいの時間稼働していくのでしょうか。

そこでこの記事では当店の中古個体を用いて、パワーリザーブ通りの時間数、駆動するのかどうかを実験してみました!併せてゼンマイがほどけるに従って、精度がどのように変わっていくのかも実測しております。

実験対象として選んだのはロレックスとオメガ。二大ブランドの人気モデルのムーブメントの実力やいかに!?

ロレックス 価格 エクスプローラーI 214270

※実験中、対象個体は一律に平置きで保管しておりました。実際の使用環境下によって持続時間や精度は異なることをご了承下さい。

 

ロレックスとオメガでパワーリザーブを実測してみました

「48時間のパワーリザーブは、本当に48時間駆動するのか?」

この疑問を解明すべく、当店在庫の中古モデルで実験を行いました。

対象としたのは、下記の2つのモデルです。

 

実験モデル①ロレックス エクスプローラーI 214270

手首が細い男のための腕時計 エクスプローラー

ケースサイズ:直径39mm
素材:ステンレススティール
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.3132
防水性:100m

まず一つ目が、エクスプローラーI 214270です。ロレックスの人気モデルのうちの一つですね。2010年~2021年まで製造されました。

搭載するムーブメントは自動巻きCal.3132パワーリザーブは約48時間・振動数は28,800振動/時となります。なお、実験対象モデルの販売年は2019年です。

 

近年ロレックスはCal.3200番台の新世代機へと移行を進めており、エクスプローラーIもCal.3230へと載せ替え。モデルチェンジを果たしました。

しかしながら、長らくロレックス技術を下支えしてきたのはCal.3100番台です。とりわけこちらのCal.3132は先代Ref.114270に搭載されてきたCal.3130をベースに、エクスプローラー用に開発された名機です。

具体的には2005年に開発されたブルーパラクロムヒゲゼンマイおよびパラフレックスショック・アブソーバーを備えることで、探検家用途としてふさわしい耐磁性能と耐衝撃性能を獲得しました(もっともオイスターパーペチュアルの一部モデルにCal.3132が搭載されていましたが)。

ロレックス Cal.3132

なお、現在Cal.3200番台には耐磁性・耐衝撃性がデフォルトで備わっているためモデルによるキャリバーの区別はなく、新型エクスプローラーI Ref.124270もサブマリーナ Ref.124060やオイスターパーペチュアル Ref.124300などと同様にCal.3230が搭載されております。

 

実験モデル②オメガ スピードマスター プロフェッショナル 311.30.42.30.01.005

オメガ スピードマスター 311.30.42.30.01.005

ケースサイズ:直径42mm
素材:ステンレススティール
駆動方式:手巻き
ムーブメント:Cal.1861
防水性:50m

もう一方の実験対象個体は、ロレックスと並んできわめて高い人気を誇るオメガの、基幹モデルにあたる スピードマスター プロフェッショナル 311.30.42.30.01.005です。「ムーンウォッチ」としても親しまれていますね。こちらは2014年から販売スタートし、エクスプローラーI 214270と同年にあたる2021年にモデルチェンジされました。

搭載するムーブメントは手巻きCal.1861パワーリザーブ約48時間、振動数は21,600振動/時となっております。実験対象モデルの販売年も2019年です。

 

この手巻きCal.1861であるがゆえに、スピードマスター プロフェッショナルを愛している諸氏は少なくないでしょう。

出典:https://www.omegawatches.jp/

Cal.1861は1996年から使用が開始されますが、その出自は1942年まで遡ることができます。

クロノグラフの名門レマニア社の、高名な時計技師アルバート・ピゲ氏がオメガからの要請のもと設計したCal.27 CHRON C12。1942年に完成した当ムーブメントは、30分積算計と12時間積算計を備えながらきわめて小さく薄い(当時としては最小)クロノグラフ機でした。ちなみに後年、パテックフィリップやヴァシュロンコンスタンタンもこのCal.27 CHRONをベースムーブメントとして採用したと言います。

そんなCal.27 CHRON C12に耐震装置と耐磁性能を搭載させたCal.321が誕生し、1957年の初代スピードマスターに搭載されますが、以降、Cal.1861までその基本設計を大きく変えていないという驚くべき事実を有します。もちろん時代を経るに従って性能は向上していくこととなりますが、クロノグラフ黎明期からのオメガの歴史を体現するかのような傑作ムーブメントと言えるでしょう。まさに不変にして普遍の、不朽の名作というわけです。

前述の通り、スピードマスター プロフェッショナルは2021年にモデルチェンジが敢行され、Cal.1861からCal.3861へと移行しました。Cal.3861は15,000ガウスもの高耐磁性能を誇るマスタークロノメーター認定機となり、類まれな実用性を誇ります。しかしながらCal.321から系譜を引くCal.1861もまた、傑作クロノグラフであることに変わりはありません。

 

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【実験】ロレックスとオメガのパワーリザーブを実測していく!

それでは上記でご紹介したロレックス エクスプローラーIとオメガ スピードマスター プロフェッショナルを用いて、パワーリザーブ実験を行っていきます!

 

①実験開始~0時間目~

開始日程は2021年12月3日(金)午後2時~

開始時にまずそれぞれのゼンマイをフルに巻き上げたうえで、時刻を2時00分00秒にセッティング。

また、併せてタイムグラファー(歩度測定器)で歩度・振り角・片振り・振動数を計測しております。計測値は下記の通りです。

 

◆エクスプローラーI 214270(0時間目)

姿勢 実測値
平置き 歩度+4 / 振り角310° / 片振り0.1ms
リューズ下 歩度+2 / 振り角277° / 片振り0.0ms

 

◆スピードマスター 311.30.42.30.01.005(0時間目)

姿勢 実測値
平置き 歩度-2 / 振り角335° / 片振り0.0ms
リューズ下 歩度+3 / 振り角299° / 片振り0.2ms

 

このタイムグラファーとは、機械式時計のテンプの音を拾うことで、簡易的に一日分の精度を計測できる計器です。

タイムグラファー

機械式時計はテンプの往復運動によって精度を取ります。そのため、このテンプの状態を確認することでムーブメントの性能をある程度知ることが可能です。ちなみにムーブメントの振動数とはこのテンプが時間単位あたりどれくらいの回数振動するかを示します。

腕時計は実際の着用時には様々な姿勢差を取るため、当店では平置き状態とリューズを下にした状態の二つの姿勢でそれぞれ計測を行います。

 

なお、今回の実験はパワーリザーブ計測のためゼンマイをフル巻きにしておりますが、やはりタイムグラファーの実測ではゼンマイが十分に巻き上げられている必要があります。

後述しますがゼンマイはほどけるに従って一般的には制御する力も弱まっていき、良好な精度が出しづらくなるためです(歯車を動かすトルクが弱まる)。そのためタイムグラファーでの計測時には、手巻きモデルは巻き止まりまで、自動巻きモデルはリューズを使って50回程度、パワーリザーブインジケーターがあるモデルは残時間が半分以上になるまでゼンマイを巻き上げてから計測することが望ましいです。

 

歩度測定器

上記画像は別の時計を実測した際の数値ですが、タイムグラファーでわかることは同一です。

まず歩度が精度に当たります。一日に何秒遅れるまたは進むかを示します。機械式時計は一日に-10~+20秒程度の誤差は許容とされていますが、タイムグラファー上の良好な精度は-2~+15秒程度です。

振り角はテンプが左右に触れる際の角度のことです。かつて振り角は大きい方が高精度と言われていましたが、振り幅が大きいとそれだけ振り当たり(振り石と呼ばれるパーツがアンクルの反対側に当たってしまい、その衝撃で時間の進みが加速する現象のこと)が発生しやすいという側面もあります。そのため一概には言えず、一般的には振り角250度~320度程度が望ましいとされていますが、ロレックスなどは振り当たりを起こさないことを重要視しているため、250度前後の個体も珍しくありません(特に最新機種)。もっともパワー不足によって振り角が落ちている時は、ゼンマイの巻き上げ不足などを示唆しています。

片振りはビートエラーとも言われ、左右均等にテンプが回転しているかを示す数値です。テンプの中心が左右どちらかに偏ってしまっていると片振りが大きくなっていることを示唆しており、0.0~0.2程度までが良好な数値とされています。ただし年式の古い個体は、0.5程度までは許容範囲とされることもあります。

 

それぞれの数値の意味がわかったところで再度上記の表をご覧頂くと、ロレックス・オメガともにどちらもきわめて良好な精度を有していることが見て取れるでしょう。

なお、冒頭でも述べたように保管は平置きであったため、実際の使用環境下では上記の精度は異なります。機械式時計の精度は姿勢差やゼンマイの巻き上げ具合(自動巻きは加えて腕の運動量)によっても変わってくるためです。

また、クロノグラフを動かすとその分エネルギーを消費し、メーカー公式値の48時間よりもパワーリザーブが短くなってきます。そのためスピードマスターの当該機構は今回は駆動させておりません。

 

②実験2日目~24時間経過~

一日が経過しました!24時間、パワーリザーブは理論上は、半分程度ということになります。

どちらの時計も当然稼働しており、精度も良好なように思えます。事実、24時間駆動時のエクスプローラーIおよびスピードマスター プロフェッショナルを電波時計と比較した結果、その誤差は10秒以内と、ほとんどありませんでした。

24時間経過時のタイムグラファー数値は下記の通りです。

 

◆エクスプローラーI 214270(24時間目)

姿勢 実測値
平置き 歩度+2 / 振り角275° / 片振り0.0ms
リューズ下 歩度0 / 振り角247° / 片振り0.0ms

 

◆スピードマスター 311.30.42.30.01.005(24時間目)

姿勢 実測値
平置き 歩度+2 / 振り角294° / 片振り0.0ms
リューズ下 歩度+5 / 振り角268° / 片振り0.2ms

 

振り角も下がっているとは言え若干となり、きわめて良好な状態であることがわかりますね!さすが時計界の二大勢力、ロレックスとオメガです!

 

③実験3日目~44時間経過~

まもなくゼンマイがほどけきるであろう時間帯の直前に二つの時計を見てみると、問題なく稼働しています。ちなみに電波時計と比較したところ、どちらも1分程度の進みが見受けられました。

タイムグラファーで計測した数値は下記の通りです。

 

◆エクスプローラーI 214270(44時間目)

姿勢 実測値
平置き 歩度-1 / 振り角173° / 片振り0.2ms
リューズ下 歩度+3 / 振り角165° / 片振り0.2ms

 

◆スピードマスター 311.30.42.30.01.005(44時間目)

姿勢 実測値
平置き 歩度+29 / 振り角228° / 片振り0.0ms
リューズ下 歩度-4 / 振り角185° / 片振り0.4ms

 

理論上では既に9割のゼンマイがほどけきっていると考えられるため、さすがに振り角から大幅なパワーダウンが望めます。こうなってしまうと数値上での精度はあまり信頼できないのですが、それでもこの2本はともに1分程度のズレであったことに驚かされます

さて、それでは48時間経過後、時計はどのような状態になっているのでしょうか・・・?次項へ続く!

 

【結果】ロレックス・オメガのパワーリザーブは48時間だったのか?

実験開始から48時間が経過した2021年12月5日(日)午後2時、改めて二つのモデルを確認すると、まだ稼働しています

上記画像は、ともに48時間経過後に撮影したものです。電波時計上では14:01となっており、1分強のズレが生じていましたが、秒針はしっかりと稼働しておりました。

結局完全に時間が止まったのは、エクスプローラーI 214270が17:01:01、スピードマスター プロフェッショナル 311.30.42.30.01.005が17:24:14でした。

つまり、パワーリザーブは前者が約51時間、後者が約51時間24分であったということ。また、さすがにゼンマイのエネルギーがロストした結果、1分程度のズレが生じていたことが実験でわかりました。

 

パワーリザーブは元気なテンプの目安!時計の良好な精度を保つために

スピードマスター 311.30.42.30.01.005

公式値よりも長い持続時間となったエクスプローラーIとスピードマスター プロフェッショナル。

しかしながら繰り返しになりますが、使用環境下によって持続時間も精度も異なってきます。とりわけ精度は、ある程度ゼンマイのエネルギーを確保しておくことでメーカーが基準としている良好な精度を実現することができるのです。

 

今回は実験という特性上、稼働から大きく時間経過した段階でもタイムグラファーでの計測を行いました。しかしながら基本的にメーカーも時計技師もトルクがロストした状態での精度は担保していません。

ちなみに機械式時計でしばしば行われる「精度調整」。これは使っていくうちにテンプの回転周期に乱れが生じて時間の進み・遅れが発生した際、テンプの調整機構を使ってズレを修正するメンテナンス作業を指します。この精度調整はどの時点での精度を基準に修正しているかと言うと、自動巻きであればゼンマイがフルに巻かれた状態。そして手巻き時計であれば、ゼンマイがフルに巻かれた状態に加えて、稼働から24時間経過時の状態も実測のうえ、調整が行われます。

どういうことかと言うと、手巻き時計は自動巻き時計と異なり使用している状態でどんどんゼンマイがほどけていくため、必ずしも一定のトルクを保つとは限りません。そのためゼンマイがフル巻き状態で時間の進みが見られ、かつ24時間経過時でもまだ時間の進みが見受けられる個体は、使用時にどんどん時間が進んでいってしまう可能性があることを示唆しています。そのため手巻き時計の精度調整は、ゼンマイフル巻き時と24時間経過時の二地点を基準制度に、調整が行われるのです。

 

ロレックス エクスプローラーI 214270

すなわちメーカー基準値を満たす良好な精度を実現するには、ゼンマイのトルクを十分に確保することが大切です。

自動巻き時計だと、久しぶりに使用する時や運動量が少ない時、十分にゼンマイが巻き上げられていない可能性があります。リューズを使って40~50回程度ゼンマイ巻き上げを行ってから着用すると良いでしょう。

手巻き時計の場合は、やはりリューズを使って優しく巻き上げを行いましょう。多くの手巻き時計には巻き止まりがあるため、巻けなくなったらフルにゼンマイが巻かれたことを意味します。毎日使う時計であれば一日一回、決まった時刻にゼンマイを巻くと使用中の精度が一定になりやすいです。

 

ゼンマイをフル巻きにしても精度が低い場合は、磁気帯びやパーツの劣化・破損など、何らかの不具合が考えられます。その際はメーカーや修理店に相談してみましょう!

 

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まとめ

メーカーが公式に発表するパワーリザーブ、本当にその数値を実現できるのかどうか。また、パワーリザーブが経過するにつれて精度はどのように変化していくのかの実験を行いました!

ロレックスおよびオメガは実用時計の中でも最高峰に位置づけられるため、上記のようにパワーリザーブ面でも精度面でも良好であることがわかりますね。

しかしながらどの個体であっても、良好な精度を保つためにはゼンマイを巻き上げてからご使用頂くことが大切です。まず時間の遅れ・進みを感じたらゼンマイを巻き上げてみることをお勧めいたします。それでも改善しない場合は、購入店や修理店にすぐに相談することが大切ですね。

 

 

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この記事を監修してくれた時計博士

廣島浩二(ひろしま こうじ)

(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任

1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年

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